映画『ある少年の告白』 矯正施設、静かに告発
同性愛の矯正施設の存在に驚き、矯正できると考える人がいることにも驚く。
19歳でゲイの矯正治療を体験したガラルド・コンリーが2016年に発表した回想録が原作。これを『ザ・ギフト』で監督デビューした俳優ジョエル・エドガートンが脚本・製作・監督で矯正施設の実態と、そこへ最愛の息子を預ける親の苦悩、親の期待に沿えない息子の悲しみを描く。
米南部の田舎町。牧師でカー・ディーラーの夫(ラッセル・クロウ)と、従順な妻(ニコール・キッドマン)の一人息子ジャレッド(ルーカス・ヘッジズ)は、大学の寮生活で出会った友人に初めての恋を知り、ゲイであることを自覚した。
その告白を受けた父は、息子が聖書の戒める同性愛者であることに衝撃を受け、友人の助言でカウンセラー、ヴィクター・サイクス(ジョエル・エドガートン)の《12日間救済プログラム》にジャレッドを入れ、母が送っていった。
施設の職員の無神経が治療を受ける者の心を傷つける。野球のバッティングで男らしさを教えようとするナンセンス。同性愛の罪を書き出して神に許しを乞う文を書かせる。聖書で叩(たた)く暴力で傷つく少年がいて、彼はやがて死を選ぶ。ありのままの気持ちを話すジャレッドはヴィクターに「ウソをつくな」と怒鳴られた。
矯正治療とは同性愛を捨てたふりをすれば良い、ということを教えるためにあるのか、と思えてくる。
息子から施設の実情を聞いた母は施設に入れることに同意した自分を恥じた。でも夫には息子がゲイであることは容認できないだろう。それでも、愛する息子のために理解し、変わる努力をする、という夫の言葉が家族の幸せを予感させて、悪くない結末と思う。
同性愛矯正施設の全廃を、と叫ぶわけではないが、ここにある静かな告発には力強い怒りがこもっている。1時間55分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2019年4月26日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。