新緑の季節は森林浴 五感刺激し自分流リラックス
新緑が美しい季節。森林浴に関心を持つ人も多いのではないか。森を散策し木々の香りに触れれば心身の健康につながる。自分が最も心地よいと感じる過ごし方を見つけることで、森林浴がより効果的になる。
森のなかに入ると気持ちが爽快になる――。こうした効果はこれまでも感覚的に知られてきたが、研究が進み科学的な実証が進んでいる。
「人類の歴史は700万年におよぶが、人はその大半を森林など自然の中で過ごしてきた。アスファルトや機械など人工物に囲まれて暮らす現代人は、もともとストレスを感じやすい」。こう指摘するのは、千葉大学環境健康フィールド科学センター(千葉県柏市)の宮崎良文グランドフェローだ。自然に触れてストレスを減らすことで、健康を保ち病気の予防に役立てるのが森林浴だ。
森林浴の効果は景色を楽しむ視覚、草木の香りに触れる嗅覚、鳥のさえずりに親しむ聴覚など五感が刺激されることでもたらされる。こうした刺激で自律神経が安定することによってリラックスする。
実際、森林と都市部でそれぞれ過ごした人の唾液に含まれるストレスホルモンの濃度を比較すると「森林でリラックスすると濃度が低下した」(宮崎氏)。都市部では目立った低下が見られなかった。同様に森林では脳の働きのうち、記憶や思考、感情をコントロールする部分の活動が抑えられ、気持ちが落ち着くことが分かっている。
リラックス効果に加え、樹木が発する成分そのものが体を健康にする。日本医科大学付属病院(東京・文京)の医師で森林医学研究会代表世話人の李卿氏によると、森林の樹木が発する香り成分「フィトンチッド」の作用によって免疫機能が高まる。フィトンチッドに触れることで、体内でがん細胞を攻撃するナチュラルキラー細胞が増えることが確認されている。
宮崎氏の研究では、森林浴の効果は、人それぞれ異なった形で表れる。例えば森を歩くことで、血圧が高い人は下がり、低い人は上昇する。体が本来の健康な状態に向かうもので「生体的調整効果」と呼ばれている。宮崎氏によると、森林浴でこの効果が確認されている。しくみの解明が進めば、生活習慣病の改善や予防への利用が期待できる。
こうした森林浴の効果を十分に引き出すには、「自分にとって何が最も心地よいのかを探すことが重要」と宮崎氏は強調する。深呼吸、ストレッチ、瞑想(めいそう)、樹木に触れる、景色を楽しむなど、一番くつろげることを思う存分に行うことでリラックス効果がより高まるためだ。
森林浴はくつろぐことが目的だけに、激しい運動は避けた方がいい。散策なら成人で「2~4時間で2.5~5キロメートル」を目安にして、「体力に合わせ無理のないスケジュールを立てること」(李氏)が大切だ。
森林浴で得られる効果は少しずつ減りながらも、2泊3日の行程であれば1カ月程度、日帰りなら1週間程度持続する。ただ、定期的に出かけられるとは限らない。そこで、森林浴の効果を、日常の暮らしである程度取り入れる方法がある。李氏によると、都市部でも公園や寺社などちょっとした緑のある身近な自然環境に身を置くことでも緊張感や疲労感が緩和され、心身が活気づく。
宮崎氏によると、自宅やオフィスで観葉植物や切り花を飾ったり、無垢(むく)の木材の家具を置いて触れたりすることでもリラックスするという。森林浴で心地よいと感じたことを日常の暮らしのなかに取り込めばいい。
この季節、まずは森林浴や身近な自然に親しんでみよう。
(ライター 田村知子)
[NIKKEIプラス1 2019年4月27日付]
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