「だるまさんがころばない」!? 伝統の遊びアレンジ
子供のころ、日が暮れるまで友達と汗を流した日本伝統の遊び。現代では子供たちが独自の掛け声を編み出したり、ファッション性の高い競技になったりと進化している。進化の様相を探った。
「だるまさんがー」。4月中旬、横浜市のやよい台幼稚園に元気な声が響いた。「ころんだ」とは続かず、鬼役の子供の口から出た言葉は「ねんねした」。鬼に近づいていた子供らは、そろえた両手をほおにあてる「おねんねポーズ」で一斉に固まった。
「だるまさんがころんだ」の派生とされ「新聞読んだ」「歯みがきした」などのバージョンもある。上手にまねができないとアウトだ。
「本家だるまさん」の起源は不明だが、掛け声が10音のため、1から10まで数える代わりにしたとの説もある。
同幼稚園でフィールドワークを続ける日本女子体育大の桐川敦子准教授によると、20年ほど前から関東圏などで「ねんねした」などの掛け声が自然発生的に広がっていったという。桐川さんは「子供は遊びの天才。次々と面白い形に変えていく」と舌を巻く。
けん玉も現代流にアレンジが進み、ファッション性の高い競技として注目を集める。
実は海外由来で、最も古い記録は16世紀のフランス。ヒモで結ばれた玉を棒状の軸で刺す「ビルボケ」が原型とされる。軸は現代のような十字形ではなくI字形で、受け皿は根元のみだった。
国内の文献に登場するのは1809年発行の「拳会角力図絵・下」にさかのぼる。当時は吉兆の占いなど用途は様々だったようだ。現在の十字形は大正時代からで、広島県呉市の男性の考案だという。
戦後は子供の遊びとして定着。何度かブームらしきものはあったが、あくまで子供と一部のファンに限られていた。潮目が変わったのは2012年。米国で従来にないダイナミックな技を踊りながら決める動画がインターネットに投稿され「ストリートけん玉」として人気に火が付いた。
けん玉愛好家だった窪田保さんも動画に触発され「グローバルけん玉ネットワーク」を設立、14年に広島県廿日市市でワールドカップを開催した。制限時間内に成功した技の数と難易度で競い、昨年の第5回は海外勢95人を含む400人以上が参加した。
近年はスマートフォンのアプリで技の成否判定ができるタイプもある。世界の推定競技人口は500万人。窪田さんは「僕が子供のころに比べ20倍には増えている。いずれは五輪競技に」と意気込む。
昔遊びが、子供の体力向上に導入される動きもある。その名も「スポーツ鬼ごっこ」。7人ずつ2チーム、5分2セットで競う。敵陣地の「宝」を持ち帰るのが目的で、敵陣でタッチされると一旦自陣に戻らなければいけない。
考案者とされる城西国際大学の羽崎泰男兼任講師の長男で、国際スポーツ鬼ごっこ連盟理事長の貴雄さんは「運動が苦手な子供も手軽に楽しめる」と話す。愛知県豊橋市が17年、全52の市立小で導入を決定。大分県や東京都でも取り入れられている。
鬼ごっこは平安時代の宮中行事が起源とされ、江戸時代に「子をとろ子とろ」の名称で大衆の遊びになった。「鬼」「親」1人ずつ、他の参加者は「子」となり、鬼が親の後ろの子を触ると勝ち、子を守り切ると親の勝ちだった。
1人の鬼が多くの子供を追いかけるスタイルは「鬼役を特定の子供に押しつけるイジメにつながるケースもある」(羽崎理事長)。欧米の教育機関では禁止する例もある。それに対し、スポーツ鬼ごっこは1人に負担がかかり過ぎないのも魅力だという。
同連盟は全国各地の小中学校で年間300回レクチャー会を開いている。親子連れの参加者も多い。運動不足を感じている人は、参加してみるのもいいだろう。
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世相や有名人 何でも吸収
昔ながらの遊びは大人主導で競技化が進んだものと、子供たち自ら遊ぶ中で変えていったものがある。例えば「バナナおに」は「こおりおに」から派生した。本家は鬼にタッチされると「フリーズ」するが、バナナおにはさらにバナナのポーズを取る。仲間が子供の前でバナナの皮をむくポーズをすると逃げられる。
日本女子体育大の桐川敦子准教授は「世相や有名人など子供は何でも遊びに取り入れる無邪気さがある」と話す。記者(35)も小学生時代、ドッジボールを階段で楽しむ「階段ドッジ」にアレンジした。現代ではさらに工夫が加えられているのかもしれない。
(宇都宮想)
[NIKKEIプラス1 2019年4月27日付]
〈訂正5月3日5時40分に公開した「『だるまさんがころばない』!? 伝統の遊びアレンジ」 の記事中「羽崎康男兼任講師」とあるのは「羽崎泰男兼任講師」の誤りでした。本文は訂正済みです。
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