こうした営業手法について、「消極的で人見知りだから」と説明するが、顧客からの見え方は違うようだ。ある男性経営者は「売りこみたい気持ちが強すぎると営業は逆効果。国田さんはそれがゼロに近かった」と評価する。
結果として顧客から話しかけるうちに自然と保険の加入状況の相談が始まり、足りない部分を国田さんが提案する流れができる。提案後も加入は促さず、相手が申し込むまで待つ。「聞き上手なので『聞いてくれてありがとう』という気持ちになる」(別の男性経営者)と、聞く営業姿勢を絶賛する声も多い。
ただ、機が熟すのを待つ営業スタイルの裏側には圧倒的な活動量がある。「動いていないと不安になる」。基本的にアポイントは入れずに通常は1日10社程度、多い日は30社訪問することもある。さらに「一度妥協したら崩れかねない」と、自分が決めたルートは天候が悪くても必ず回りきる。
質問に素早く対応
待つだけではなく、レスポンスの速さと的確さも強みの1つ。顧客から尋ねられたことには返答の時期を明示したうえで、すぐ手帳に書き込んで迅速に対応する。ある顧客は「飛び込みで来た時に保険について少し聞いたら、次回は入念な準備をしていて抜け目のない状況だった」と対応の的確さに舌を巻く。
「消極的な営業は過去にもいたが、普通は成果を出せない」。今春まで東大阪支社に所属していた南大阪支社の塩野哲也担当部長は指摘する。国田さんは「企業をひたすら回ったうえで、顧客を待てる忍耐力を持っているのが成果につながっている」とみる。東大阪市は中小企業が集積しているだけに、助言は受けたいが自分のペースで考えて判断したいという経営者の性質にも合致しているようだ。
「『仕事をやめないでね』などと顧客に必要な存在とされる瞬間が何よりうれしい」と語る国田さん。物静かな笑顔の向こうに見える血のにじむような努力は、今後も顧客を魅了し続けそうだ。
(中谷庄吾)
2010年関西外大外国語卒。銀行勤務を経て13年に住友生命保険入社。東大阪市内で法人や個人の営業を担当。18年に「Million Dollar Round Table」に加盟した。
[日経産業新聞2019年4月25日付]