服も肩書も脱いで仕事? 若手も参加、企業にサウナ部
サウナの人気がじわじわ再燃している。企業には「サウナ部」が立ち上がり、老若男女がこぞって汗を流す。ワーキングスペースも併設するなどサービスも進化している。
「サウナに入れば役員も新入社員も関係ない。最初から裸だから、相手との壁が取り払われるのが早い」。EY新日本監査法人やEY税理士法人を統括するEY Japanの企業内部活、サウナ&スパ部の高須邦臣部長は話す。2016年にサウナ好きが集って部を立ち上げ、現在は52人が在籍している。
「服だけでなく肩書も脱ぐ」がモットー。月1回サウナに集い、併設のレストランで宴会を開く。プライベートな相談をしたり、キャリアの悩みを打ち明けたり。職場では出ない話題で盛り上がる。
コクヨやRettyにもサウナ部があり、社内コミュニケーションに一役買う。「フリーアドレス制になり、同じ部署でも全く顔を合わせない日がある。人とのつながりを求めているのかもしれない」(高須さん)
かつては中高年の男性が通うイメージが強かったが、最近は20~40代の男女の姿も目立つ。「タナカカツキさんのサウナ漫画『サ道』が世に出た3年前から若い人が増えた」と日本サウナ・スパ協会(東京・千代田)の技術顧問、中山真喜男さんは言う。
愛好歴30年以上の温浴施設コンサルタント、太田広さんは「インターネットとSNSのおかげで、スマホ1つでサウナの情報を調べられるようになり、若い人が色々なサウナを訪れている。今後もこの傾向は続く」とみる。
日本にサウナが生まれたのはいつだろう。日本サウナ・スパ協会の中山さんによれば、国内第1号は1957年、東京・銀座の「東京温泉」に設けられたという。
社長の許斐氏利さんは射撃の選手でもあり、56年のメルボルン五輪に出場した経歴の持ち主。選手村でサウナを見て刺激を受け、帰国後に東京にも作った。当時は壁一面にパイプを張り巡らし、蒸気を送って部屋の温度を上げる方式だったそうだ。
64年の東京五輪の選手村にもサウナが設けられ、ブームのきっかけとなる。「もともと日本人は風呂好き。汗をかいて水風呂に入る爽快感も支持された」と中山さん。
五輪後の昭和40年代には一気に全国にサウナが増えていく。73年の石油ショックで急減するが、その頃は4000店ほどあったとの説もある。
その後は、サウナがある健康センターなどができ、男性客だけでなく、ファミリー層も楽しむようになる。
宿泊設備や飲食店を併設するなど営業面積も大きくなっていく。昭和が終わる頃に大型のスーパー銭湯が生まれ、平成前期には次々開業した。
2度目の東京五輪を来年に控えた今、サウナが再びブームに。タオルで熱風を送るドイツ発祥の「アウフグース」や、熱した石に水を掛けて水蒸気を起こすフィンランド発祥の「ロウリュ」などのサービスも広がってきた。いずれも体感温度を上げるのが目的だが、娯楽性もある。
「今後5~10年でサウナの経営者の世代交代が進む。若い人たちの要望を前向きにとらえ、新しいサービスや面白いサウナが出てくるだろう」。太田さんは期待を寄せる。
サウナに久々に入る人は体調に気を付けよう。出た後の水風呂は、かけ水をしてから漬かると体が冷えすぎるので、太田さんは「熱めのシャワーで汗を流してから水風呂に入るとよい」と勧める。その後は体をよく拭き、休憩する。「何とも言えない快感を覚えるはず。そうしたらもうサウナ中毒です」
新年度に入り、気ぜわしい日々を送っている人も多いだろう。サウナでじっくり体を温めるのも良いリフレッシュになりそうだ。
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仕事ができる施設も
最近は「コワーキングスペース」を備えた施設もある。今年3月にオープンした「RAKU SPA 1010 神田」(東京・千代田)はWi-Fiと電源、デスクスペースを完備=写真。入浴やサウナの合間にパソコンを使った仕事ができる。網代浩一店長は「ゆったり過ごし、創造的なひらめきを得てもらえれば」と話す。
EY Japanサウナ&スパ部長の高須さんも時折、こうしたコワーキングスペースのある温浴施設を利用する一人。「誰からも話しかけられないし、仕事を片付けたらすぐサウナに入れると思うと、集中できる」と利点を挙げる。
(関優子)
[NIKKEIプラス1 2019年4月20日付]
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