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決済アプリが脅かすプライバシー 「便利」の代償とは 慶応大学教授 坂井豊貴

2019/4/13付 日本経済新聞 朝刊

■私とは誰か問う

電子マネーの普及にともなうプライバシーの問題は、すでに1980年代には指摘されている。その系譜のなかで生まれたのがビットコインだ。ビットコインはプライバシー保護が強い設計で、また企業や国家のような管理主体はない。この通貨を支えるのは、暗号技術に基づく独自の分散システム。これについては小島寛之著『暗号通貨の経済学』(講談社・19年)の一読を薦めたい。ビットコインは投機的な面ばかりが注目されがちだが、プライバシーや自由の文脈から評価されるべきものだ。

私は最近、現金での支払いを、不便だと感じる。だが昔はそのように感じていなかった。キャッシュレスに慣れるにつれ感覚の変化が起きたのだ。とすると便利が発明されたのか、不便が発生させられたのか、よく分からなくなる。

キャッシュレス化の功を否定したいわけではない。ただ、それが私個人にとって価値ある社会変化なのか、容易には結論付けられない。若林恵が『さよなら未来』(岩波書店・18年)で語るように「『便利になる』って、ぶっちゃけなにが価値なんだろうか」とも思うのだ。

私とは誰であるか。そのように逡巡(しゅんじゅん)する存在なのだということを、暫時的な答えのなかに入れておきたい。

[日本経済新聞朝刊2019年4月13日付]

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