映画『麻雀放浪記2020』 現代の不安と狂騒 軽やかに
あぶない映画という触れ込みだったが、存外、まっとうな映画である。和田誠監督の映画化でも知られる阿佐田哲也の小説「麻雀放浪記」を大胆に翻案。現代社会を撃つ近未来SFであり、皮肉なコメディーであると共に、阿佐田作品の精髄の「今この瞬間」に賭ける生のスリルを描き出している。愛の物語でもある。
1945年の焼け跡の東京。学ラン姿の若き雀士・坊や哲(斎藤工)が九連宝燈をあがった途端、雷に打たれる。路上で目覚めるとそこは2020年の東京。タイムスリップしたのだ。
戦争勃発で東京五輪は中止された。反戦デモを警官が鎮圧する。街にロボットがあふれ、国民は額にマイナンバーのチップを埋めこまれている。コスプレ雀荘に入った坊や哲は、作り込んだキャラと勘違いされ、金を賭けないことに驚く。
そんな坊や哲の世話をするのが売れない地下アイドルのドテ子(もも)。怪しい芸能プロ社長のクソ丸(竹中直人)に枕営業を強いられているが、仮想現実のシマウマとしかセックスできない。クソ丸は坊や哲を学ランにフンドシの雀士「昭和哲」として売り出す。
折しも五輪に代わり開かれる麻雀五輪に哲が招かれた。最強の敵はAI搭載のアンドロイド、ユキ(ベッキー)。なぜか焼け跡の麻雀クラブのママとうり二つだ。ドサ健(的場浩司)、出目徳(小松政夫)そっくりの雀士も新国立競技場に集まり、勝負が始まる……。
現代日本の不安と狂騒を軽やかに見せていく。白石和彌監督は全編をiPhoneで撮影し、ポップな感触を生みだした。時代遅れだがブレない昭和の男のまなざしが効いた佐藤佐吉らの脚本がいい。絶対に自分を曲げない坊や哲にほれるドテ子の純情は心に響く。
暴力や性を描く作品でも常に社会に突き刺さるものがあった白石の真摯な資質が鮮やかに表れた娯楽作。1時間58分。
★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2019年4月12日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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