加齢で皮膚はがれる「スキンテア」 80~90代で増加
保湿で予防・ケア/「虐待」誤解に注意
ちょっとしたはずみで、高齢者の皮膚が破れたり出血したりするスキンテア(皮膚裂傷)が医療や介護の現場で問題になっている。80歳代になると目立ちはじめ、治療や介助のために手足を軽くつかんだりしただけで生じることもある。一度起きると繰り返しやすく、肌を乾燥させないなどの予防やケアが大切だ。
手足の皮膚がめくれて、血だらけになっている。手足に皮下出血したような大きなあざができている――高齢者にこんなことが起こるようになったら、スキンテアを疑ったほうがいい。
スキンテアは、皮膚の表面だけが裂けたりはがれたりして出血、強い痛みを伴うことが多い。加齢によって皮膚の表面のすぐ下にある乳頭層と呼ばれる部分の凹凸がなくなって、その下の真皮とずれやすくなることで発生する。「80~90歳代で増えてくる」と真田弘美東京大学教授は注意を促す。
ナイフが刺さるなどして手足の深い部分まで届く傷と違って、スキンテアは皮膚の表面だけがはがれる。このため発生したときの治療やケアのしかたも異なる。また一度発生すると再発しやすく、治療後の日常生活でも、本人だけでなく家族や介護者を含めた周囲の注意が欠かせない。
「大切なのは摩擦を起こさないこと」と真田教授は強調する。スキンテアになると、衣類を引き上げただけで皮膚が裂けたり、ばんそうこうをはがすだけで皮膚がめくれたりして手足が血だらけになる。降車するときに手を貸そうと腕をつかんだだけで皮下出血して大きなあざができた、といった例もある。
日常生活では手足を周囲にぶつけたりこすったりしないよう、可能なら手足をゆるやかに覆った長袖や長ズボンを着用。介護が必要な高齢者などのために、手首から上腕までをカバーして保護する「ダーマカバー」という専用の道具も市販されている。足を守るためのすね当ても有効だ。
皮膚が乾燥すると起きやすく、肌の保湿も大切だ。「1日2回保湿剤を塗ると、発生が半分に減る」(真田教授)。ただ、保湿剤を塗るときに皮膚と摩擦を起こさないよう注意がいる。固形の保湿剤を使うと摩擦でスキンテアを起こしやすいので、ローションタイプの摩擦を起こしにくい保湿剤を使用する。
入浴などの際にも同様の注意がいる。固形のせっけんなどは使わずに、泡状の洗浄剤を使用。流した後に水分を拭きとるときも押さえるようにしてふき取り、こすらないように心がける。
スキンテアが生じた際は、まずめくれた皮膚を切り取ったりせずにできるだけ保存する。12時間以内に皮膚を元の位置に戻して被覆材などで覆っておくと、1週間程度で元通りにくっつく。家庭で生じたときはまず傷口をよく洗ってから皮膚を元の位置に戻し、被覆材で覆うなどしてからできるだけ早く医療機関で処置してもらいたい。
このときガーゼなどで直接肌を覆うと皮膚とガーゼがくっついてしまい、ガーゼをはがすときに皮膚まで一緒にはがしてしまう危険がある。ガーゼを使うときは皮膚にワセリンを塗るなどして、ガーゼと皮膚がくっつかないようにする。
スキンテアは介護現場などでもまだ知名度が低く、皮膚が裂けたり皮下出血したりするなどの見た目から、虐待によるケガと間違われる場合もある。誤解が生じると、高齢者の家族と医療機関や介護施設が相互不信に陥る危険もある。スキンテアへの関心を深めることが大切だ。
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低栄養でも起こりやすく
オーストラリアや欧米諸国に比べると日本では少ないとされていたスキンテアだが、国内でも高齢化が進むにつれて増えている。日本創傷・オストミー・失禁管理学会が2014年に医療機関を対象に行った調査によると、75歳以上の1.65%がスキンテアにかかっていた。
加齢に加え、長期間ステロイド剤や血液をさらさらにする抗凝固薬を使用している人、抗がん剤や放射線治療をしていたことがある人、透析をしている人などは特に注意が必要だ。
また高齢者で問題になっている低栄養でも起こりやすく、たんぱく質を適切に摂取することが欠かせない。「コラーゲン・ペプチドを含んだ栄養食品も皮膚の水分を保ってスキンテアを予防する効果がある」(真田弘美東京大教授)という。
(編集委員 小玉祥司)
[日本経済新聞夕刊2019年4月10日付]
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