重度の肥満に外科手術 胃を一部切除、保険適用で急増糖尿病改善の効果も

2019/4/8付

減量手術は物理的に胃を小さくする以外の効果もある。食欲を刺激するホルモン「グレリン」を分泌する場所も切除するからだ。「インクレチン」などのホルモンや胆汁酸が増え、血糖値を下げる効果も期待できる。手術を受ければ糖尿病の症状が落ち着いた状態が続く「寛解」になる例も多いという。高血圧や脂質異常症も改善が期待できる。

現代人は太りすぎが問題となっている。糖尿病など様々な病気のリスクを高めるからだ。日本ではBMI25以上が肥満に分類される。国の調査では国内で糖尿病が強く疑われる患者は推計約1000万人、予備軍も同1000万人いる。

東邦大学医療センター佐倉病院(千葉県佐倉市)の龍野一郎教授(日本肥満症治療学会理事長)は「最近の調査では高度肥満の糖尿病患者は国内で推計30万人おり、このうち約3万人は肥満の外科手術を必要としている」と話す。「日本社会では肥満が自己責任で、肥満そのものが病気だとの認識が低い」と指摘する。

欧米では約60年前に肥満症手術を始め、今では複数の方式で年間数十万件の肥満症手術を実施する。効果を裏付けるデータも出ている。スウェーデンの研究チームによる20年間の追跡調査では、手術を受けた人は減った体重を長期間維持できていた。米国チームの研究では、手術を受けた人で12年後に糖尿病だったのは3%。一方、受けなかった人は26%が糖尿病だった。

肥満症治療で手術を選べるのはよいことだが、関西医科大学(大阪府枚方市)の井上健太郎准教授は「楽にやせるための手段と捉えるのは間違い。基本は内科治療で手術はプラスαと考えてほしい」と訴える。

同大病院では患者に手術前後の注意点などを記した冊子を渡す。そこには、手術だけ受けると「食べられないストレスで気持ちが不安定になりやすくなります」「手術後も食べ過ぎてしまい小さくなった胃が破れます」「良い生活習慣を身につけられずリバウンドします」との文言もある。

患者はまず手術のことをよく理解し、通院でこれまでの生活習慣を改善して減量に努めることが重要だ。

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心と体、多面的に治療 精神科医らチームで

肥満症の手術は内科や外科だけでなく精神科医、臨床心理士、管理栄養士、健康運動指導士、看護師などがチームを組み、多方面から患者に対応することが大切だ。摂取カロリーの制限や運動による減量に何度も失敗した経験を持つ患者が多く、精神疾患のうつ病やそううつ病、摂食障害、不安障害などを抱える例もあるからだ。

患者の中には「食べてストレスを解消している」という人も、逆に「また食べてしまった」と後悔する人もいる。東邦大学医療センター佐倉病院の斉木厚人准教授は「患者は体も心も問題を抱えている。単に体重を減らすために病院に来たのではない」と話す。

兵庫医科大学病院は「手術を希望する患者全員に精神科を受診してもらっている」(精神科神経科の吉村知穂助教)。物理的に食べられなくなることや、減量に伴う心理面の変化に耐えられるかなどをみる。重い精神疾患がある場合、その治療をしてから手術に進むこともある。同様の手順を設ける医療機関は多いという。手術後も含め患者を長く支える態勢を作ることも大切だ。

(長谷川章)

[日本経済新聞朝刊2019年4月8日付]