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柴田錬三郎に学んだ度量と先見性 農家は一国一城の主 全国農業協同組合連合会会長 長沢豊氏

2019/4/6付 日本経済新聞 朝刊

転機は47歳のとき、地元の山形農業協同組合の常務になったことです。一生懸命やっていた専業農家をやめ、農協で常勤で働くことにしたのは大きな決断です。農協活動に人生をささげようと決めたんです。どうすれば農家の所得を増やすことができるのか。重責がのしかかりました。

そのころ読んだのが、五木寛之の『大河の一滴』です。一滴のしずくが集まって川になって流れ、大海へと注ぎ込む。人生ははかない。でも一滴のしずくにすらなることなく、終わりたくはない。組合員のために汗を流すべきだ。自然とそう思うようになりました。

常務になった年は複数の農協が合併した直後で、非常に厳しい決算になりました。財務上、処理すべきことがたくさんありました。にもかかわらず、職員の考え方が保守的で、今まで通りのやり方を続けようとしていました。「このままではつぶれる」と思い、職員を集めてはかなり厳しいことを言いました。あまり好かれた常務ではなかったかもしれません。

全農の会長になった後、ある経済人の紹介で京都大学の山中伸弥教授と会食する機会を得た。

身構えてしまいましたが、お会いしてみると話し方が柔らかく、とても謙虚な方で、リラックスして接することができました。『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』という本も読んでみました。研修医のとき、厳しい指導医から「ジャマナカ」と呼ばれてもめげたりせず、しっかりとしたビジョンを持って研究を続け、ノーベル賞を受賞された。自分も組織のビジョンを発信していますが、組合員と農協、そして歴史に対して謙虚であらねばならないと思っています。

いろんな分野の本を読んできましたが、思い出すのは生き方に関わるものが中心です。そしてふり返ってみると、どれもそのときどきの仕事につながっているものばかりですね。

(聞き手は編集委員 吉田忠則)

[日本経済新聞朝刊2019年4月6日付]

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