映画『魂のゆくえ』 米国の現実と聖職者の心
世界には古くから様々な宗教があるが、いかなる宗教の聖職者さえも、生きる時代の現実問題から目を背けることはできない。信仰とは今を生きる心の問題だからだ。そんな聖職者の心の動きを、アメリカの伝統的な教会の牧師を主人公に静かに描き出している。
ニューヨークにある「ファースト・リフォームド教会」。このカルヴァン派の古い教会で牧師を務めるトラー(イーサン・ホーク)は、日々の思いを直筆で日誌にしたためながら教会の仕事に励んでいるが、胃の調子が悪く、痛みを酒で紛らわせている。
ある日、信者のメアリー(アマンダ・セイフライド)から頼まれ、夫のマイケルと会う。環境保護活動家のマイケルは妊娠した妻の出産に反対していた。やがてマイケルが自殺し、彼の車庫から自爆ベストが見つかる。トラーはそれを預かることにする。
トラーはマイケルの残した資料から環境汚染の実態を知り、元凶の大企業が教会を運営する「アバンダント・ライフ教会」の支援企業とわかる一方、病院の検査で胃がんが知れる。やがて教会創立250周年の式典が近づき、トラーはある決意を胸に抱く。
ポール・シュレイダー監督は「ドッグ・イート・ドッグ」などで知られるが、彼の有名な著書「聖なる映画」は小津安二郎、C・ドライヤー、R・ブレッソンの映画に深い愛着を見せている。本作のトラーの姿は日記やモノローグ、胃がんなど、ブレッソンの「田舎司祭の日記」の主人公に明らかに重なっている。
もちろん時代は異なる。信者の減少など薄れる信仰心、保守的なキリスト教会と環境汚染に責任ある企業との癒着など、現代アメリカの社会問題を前に聖職者や信者の心が問いかけられる。演出もスタンダード画面で程よい距離感を保ちながら端正に構成している。1時間53分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2019年4月5日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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