治りにくく、生活の質を大きく下げる慢性便秘は人口の高齢化に伴って患者が増え続けており、推定で約450万人の患者がいるとされる。新薬が相次ぎ登場し、漢方薬も作用が明らかになるなど、症状や年齢ごとにきめ細かく対応できるようになった。ただ便秘は不規則な食事や運動不足なども影響している。専門家は「薬での治療だけでなく、生活習慣の見直しも重要」と指摘している。
糖尿病などで薬物治療を続けていた兵庫県の主婦、山田悦子さん(仮名、60)は週に2~3回しか排便がなく、近所の医院で処方された便秘薬を飲んでいた。だが今年に入って薬を飲んでも便通が滞るようになり、残便感と腹部の張りも感じるようになった。
このため兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市)の消化管内科を受診。2年前に発売された新薬を飲み始めたところ、数日後には毎日排便するようになり、不快な症状が消えた。山田さんは「快適な生活に戻ることができた」と喜ぶ。
便秘の治療には、腸の動きを促すセンナやダイオウなどの植物を原料とした大腸刺激性下剤のほか、腸に水分を引き込んで便を軟らかくする酸化マグネシウム(商品名マグミットなど)が主に使われてきた。
症状ごとに処方
酸化マグネシウムは薬局で買える市販薬も多く、日本では最も多く使われているが、糖尿病などで腎機能が低下した高齢者や併用する薬が多い患者は使いにくかった。2012年以降に新薬が相次ぎ販売され、兵庫医大病院の三輪洋人・主任教授は「治療の選択肢が増え、症状や年齢ごとにきめ細かく使い分けられるようになった」と説明する。
新薬の一つが、小腸で腸液の分泌を促進させて排便を促す新しい仕組みのルビプロストン(商品名アミティーザ)。妊婦には使えないが、長期に服用しても副作用が出にくい特長があり、高齢者に使いやすい。
さらにここ数年、同じタイプのリナクロチド(同リンゼス)やエロビキシバット(同グーフィス)が加わった。17年には痛みを抑えるオピオイドによる腸の活動低下を改善するナルデメジン(同スインプロイク)も登場した。
漢方薬も患者の状態に合わせて使いやすくなっている。横浜市立大学大学院の中島淳・主任教授(肝胆膵消化器病学)は「近年、漢方薬の作用する仕組みが分子レベルで解明され、便秘治療の有力な手段となっている」と話す。
中でも「潤腸湯」は便を軟らかくし、適度に腸を刺激して便秘を改善させる。作用が穏やかで軽症から中等度の高齢患者に適する。「桂枝加芍薬大黄湯」は腹部の張りなど便秘の周辺症状の改善に使うという。