映画『ダンボ』 失った者・異形の者への共感
『シザーハンズ』『バットマン』のティム・バートン監督は、1970年代末にディズニーのアニメーターからキャリアを始めた。そんな監督が、41年製作のディズニーの名作アニメ『ダンボ』を実写化した。
ダークで切ない独特の作品世界で知られる鬼才と、空飛ぶ象として世界の子供たちに親しまれるダンボ。意外な取り合わせに見えるが、考えてみると合点がいく。大きすぎる耳をもつ不細工な子象はバートン好みの「異形」だ。愛情深い母親と引き離されたことで、深い悲しみも抱えている。
冒頭、列車を降りてくる曲馬師のホルト(コリン・ファレル)が片腕であるのにドキリとする。兵役中に負傷し、妻も病死。サーカス団は人気が落ち、馬は売られた。ホルトは娘ミリー、息子ジョーと共に象の世話をし、ピエロにもなる。
アニメ版でダンボの友となるのはネズミだったが、今回はミリーだ。サーカスよりも科学に興味をもつ孤独な少女。心優しい弟ジョーと共にダンボと向き合い、その才能を発見する。母を亡くしたミリーとジョー、妻と腕と仕事を失ったホルト。何かを失った者たちがダンボと共感する。
ダンボが空飛ぶ象として脚光を浴びた後のサーカス団も描かれる。拝金主義の権化のような巨大テーマパークの経営者に雇われた団員たちの受難。バートンの異形の者たちへの思いが、個性豊かな団員たちのダンボへの思いと共振し、痛快な脱出劇が始まる……。
何かを失った者たち、異形の者たちへの共感というバートン作品の神髄が今回も貫かれている。ダークな部分、切ない部分の画としての表現には物足りなさがあるし、ダンボの心の旅はアニメ版の方が豊かだった。ただ象が羽ばたき、滑空する姿の迫力は2010年代の技術でしか表せないもの。その飛行シーンに作り手の夢が集約されている。1時間52分。
★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2019年3月29日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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