映画『リヴァプール、最後の恋』 老女優の心情悲しく
1940年代後半から50年代に妖婦的役どころで知られ、『悪人と美女』(52年)でアカデミー助演女優賞を受賞した女優グロリア・グレアム(1923~81年)の晩年の恋が映画・演劇界の匂いの中に語られる。
彼女の長男と同じ年齢の恋人だった俳優ピーター・ターナーが書いた回顧録をTV畑出身のポール・マクギガンが監督。『リトル・ダンサー』(2000年)の名子役ジェイミー・ベルがピーター役を演じた。
銀幕での盛りを過ぎた81年、ロンドンの舞台に立つハリウッド女優グロリアを演じるのは彼女に似た顔立ちのベテラン女優アネット・べニング。劇場で倒れたグロリアは病気の治療を拒否してかつての恋人ピーターを頼り、「リヴァプールに行きたい」と懇願した。そこで彼はリヴァプールにある自分の実家に彼女を連れていく。
『サタデー・ナイト・フィーバー』(77年)のトラボルタが人気だった頃に出会った彼らは幸せだったが、グロリアには年齢や、4回の結婚歴というひけ目があった。そんなとき病状の悪化を知ったグロリアには、何も言わず強引にピーターと別れた過去もある。
夫と共に大ファンだったグロリアを迎えるピーターの母親ベラ(ジュリー・ウォルターズ)の優しさ。この母は心をこめてグロリアを介護するが、グロリアの母親(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は自分のキャリアが総(すべ)ての女優。姉は、ジュリエット役がやりたい妹に「マクベス夫人でしょ」と言う意地の悪い女だ。
グロリアが乳がんの再発に苦しみながら、自分の家族よりピーターの家族を選ぶ気持ちが丁寧に描かれ、ピーターがグロリアの舞台の夢を実現させる優しさには胸打たれる。重い病に蝕(むしば)まれながら、心から彼女を想(おも)ってくれる年下の若者に頼りたい、という老女優の気持ちが滲(にじ)み出て物悲しい。1時間45分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2019年3月29日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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