産直野菜味わうビュッフェはスーパー母体 東京・羽村
JR青梅線羽村駅から徒歩3分ほどにある「農村レストラン 四季菜」は、うま味調味料や添加物に頼らない自然派料理のビュッフェレストラン。食品スーパー経営のカリスマとしてテレビなどに取り上げられることが多い福島徹会長率いる福島屋(東京都羽村市)が経営する。
ビュッフェレストランというとカニやローストビーフなどの高級感のある料理を売りにして、数千円から1万円近い料金を取る店と、低価格な加工品や安い部位の肉類を使ったリーズナブルな業態が見受けられる。同店はどちらでもない。
料金はランチ・ディナーともに大人1200円、子供(3才から小学生まで)が600円。特定の目玉メニューを売りにするのではなく、すべての料理が主役。ランチ・ディナーでメニューを変えないのも目を引く。
料理は全部で20種類強。チェーン店に比べると若干少なく感じるが、驚くのはデザートを含め全ての料理が手作りであることだ。人気の唐揚げは大ぶりで、銘柄鶏を使用。野菜は全国の産地から直接届いた鮮度の良いものを使う。サラダは生だけでなく、ニンジンやカボチャなどは焼き野菜としても並ぶ。一手間かかるが、栄養の吸収と味が良くなる。
地元だけでなく、多摩地区などから車を利用してわざわざやってくるお客も多い。ランチ、ディナーとも盛況。40席の店舗で月商は350万~400万円と郊外店であることを考慮するとかなり優れている。
忘れられないのが懐かしい味がするカレーだ。ルーを使うとろみのある家庭風のカレーなのだが、聞けば無添加のカレールーを使うという。肝心のご飯は選び抜いた米を毎日精米し、その日に使い切る。炊きたてのご飯とぬか漬け、手作り味噌を使った味噌汁だけでも満足できる。
なぜ食品スーパーがレストランを経営するのか――。福島屋は日本中の生産者に直接会い、食材を仕入れる。苦労して食材を集めるが、実際に客が購入した食材を食べるところに立ち会うことはない。「それならば、レストランを作って、お客様の反応をスタッフが直接受け止めてはどうだろう、そう考えた」(福島会長)
同店で使われている食材は旬の野菜だけでなくカレールーを含めて、近くにある福島屋で購入することができる。メニュー提案を含めた有料のテイスティングの場でもあるわけだ。
小売業を母体とするので、仕入れの強みもあるだろう。レストランの運営からメニュー開発まで担当する田中和彦取締役は「生産者から直接取引をする場合、注文のロットと送料が問題になる。しかし、小売部門とやりくりすることで良い食材を安価で仕入れられるメリットはある」と話す。
高齢化や「孤食」社会になるほど、食材を購入して自宅で料理するニーズは減っており、イートインコーナーを設けるコンビニエンスストアが増えているのもうなずける。大型店はフードコートがあるが、中規模スーパーは思案のしどころ。福島屋グループのように強みをいかしたレストランを併設するのも一案ではないだろうか。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2019年3月29日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界