上質なうまみと脂 浜松のスッポン、余すところなし
浜名湖周辺は温暖な気候と変化に富んだ自然環境に恵まれた食材の宝庫だ。ウナギやスッポンの養殖発祥の地であり、スッポンは現在でも全国トップの出荷を誇る。露地の池で育てられたスッポンは上品なうまみと脂が特長だ。浜松市内には地元特産の食材として提供する料理店も多い。
スッポン料理の花形は鍋だろう。日本料理店の繁松では酒としょうゆ、昆布で味を調え、土鍋でグツグツと煮て提供する。熱々のスープを口に含むとうまみが広がる。冬場のスッポンは脂が乗っているが、くどさは感じない。肉は鶏よりも味が濃く感じるが、やはり上品だ。
3代目の石川明さん(48)は「1時間ほど煮込んでから冷まし、もう一度温めてうまみを引き出す」という。加える具は焼きネギとシイタケ、豆腐、ミツバとシンプルだ。冷めるとすぐに固まるほどコラーゲンが豊富だ。具材を食べ尽くした後に調理してもらう雑炊にもダシが染み込む。
東京や京都の老舗料亭もこぞって仕入れるのが浜名湖東岸に養殖池を構える服部中村養鼈場(ようべつじょう)のスッポンだ。最近は浜松の料理店と協力し、地元の特産品として「徳丸すっぽん」を売り出している。社長の服部征二さん(50)は「詳しく言えないが、明治から昭和にかけて使っていたエサを復活させて育てている」と解説する。
料理店のじねんや宿下吉庵などを展開するじねんグループ代表の秋元健一さん(56)は「肉質の良さや脂のうまみが感じられる」と徳丸すっぽんを積極的に仕入れている。フルコースを頂いたが、炭焼きは肩やももなど部位によって違う食感を楽しめる。唐揚げでは小骨を感じるが身離れは良く食べやすい。エンペラと呼ばれる甲羅の周りの柔らかい部分はぷるぷるのコラーゲンの固まりだ。捨てる部分はほとんどない。
スッポンにはスタミナ料理のイメージもあるが、現在では衛生上の問題から生き血を提供する店は少ない。秋元さんは「良質な脂なのでカロリーは低く、高たんぱく。美容と健康に良いイメージを広げたい」と話す。
スッポンは出荷まで3~4年かかることもあり、安い食材ではない。じねんグループでは単品料理で「炭焼きすっぽん」も出しているが、本格的に味わうためには、浜松市内の料理店でも前日までの予約が必要だ。富久竹や桝形なども老舗として知られる。冬は脂が乗っているが「夏もさっぱりしたうまさがある」(石川さん)。浜松では1年を通じて楽しめる。
スッポンとウナギの養殖法を開発した川魚商の服部倉治郎が、地元の有力者だった中村正輔の協力を得て、浜名湖の沿岸に大規模な養殖池を開いたのは1900年(明治33年)に遡る。1年で育つウナギの養殖は愛知県や鹿児島県などに広がっていったが、出荷まで時間がかかるスッポン養殖は参入障壁が高く、1970年代ごろまで服部中村養鼈場の独占状態だったという。同社は現在も浜松市の舞阪地区に約4万坪の養殖池を構え「正確なシェアは不明だが国内最大手」(服部征二社長)という。
(浜松支局長 剣持泰宏)
[日本経済新聞夕刊2019年3月28日付]
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