最強バンドの凄み実感 ストーンズ結成57年の回顧展
英ロックバンド、ローリング・ストーンズの初の大回顧展が開幕した。彼らはなぜ「最強のバンド」と称賛されるのか。音楽や美術の500点を超える展示物を通じて魅力に迫る内容だ。
「世界中のロックバンドで、ローリング・ストーンズにインスパイア(感化)されていないバンドはない。本物のギターがあって、感動した」。15日から東京・TOC五反田メッセで開催する「エキシビショニズム―ザ・ローリング・ストーンズ展」。展示を見たバンド「シーナ&ザ・ロケッツ」のリーダー、鮎川誠(70)は興奮して話した。
同展はストーンズがプロデュース。2016年のロンドン展を皮切りに米国とオーストラリアを巡回し、今回がアジアの初開催になる。愛用のギターなど500点以上を見せ、規模は過去最大だ。1962年の結成から57年も第一線で活躍する軌跡を追う。
ものをただ置いた回顧展ではない。アイテムに関連したメンバー4人のコメントが会場の壁の随所に張られ、ストーンズの思いを感じながら観賞できる。
駆け出し時代のロンドンのアパートを再現
まず目を引くのは、メンバーが62~63年の駆けだし時代に共同生活を送ったロンドンのアパートの室内の再現展示。ギターのキース・リチャーズ(75)が「要はゴミ屋敷」とコメントするように服や酒瓶が床に散らばり、汚い。リアルで、成り上がろうとする男たちの息遣いが聞こえてくる。
間もなく彼らは成功の階段を駆け上がった。65年の「サティスファクション」で世界的な人気を獲得。展示でも当時の公演ポスターを見せ、歩みをたどる。そして次に現れるのが多くの有名曲を収録した「オリンピック・サウンド・スタジオ」を再現した空間だ。
ストーンズにとって、スタジオは音を録音する作業場ではない。彼らは、ここでセッション(即興演奏)を繰り返し音楽を作り込んだ。創作の最重要拠点だ。
それは昼夜を問わず何日も続いた。ボーカルのミック・ジャガー(75)のコメントが熱気を伝える。「夜通し作業して、それが午後まで続くことも珍しくなかった」。ドラムのチャーリー・ワッツ(77)は18時間ぶっ通しで演奏し続けたが「それが普通だった」らしい。ミックらが仮眠すると、キースがすぐに「俺が起きているうちは誰も寝かさんぞ」と起こしにきた。「僕らは仕事熱心だったってことだ。でも楽しかったよ。とにかく曲を練って練って練りまくっていた」
ストーンズは早くから「最強のバンド」と呼ばれたが、歩みは平らでない。メンバーの脱退、薬物スキャンダルといった逆風は数知れず。そのたびに傑作を発表し跳ね返してきた。再現スタジオは、音楽のほとばしる情熱を伝える。
全員70代のバンドが元気に公演
展示は、こうした音楽関連にとどまらない。美術やファッションにも広がる。
ミックが「イメージは物凄(ものすご)く大事だよ。何を着て、どんなルックスで、どう振る舞うか、そういうものすべてが肝心なんだ」とコメントするように、彼らは見せ方に徹底してこだわった。アルバムのジャケットにライブの衣装、ポスターや舞台装置。ポップアートの旗手のアンディ・ウォーホルら一流の芸術家とタッグを組んで生み出したアートが会場に並ぶ。
同展プロデューサーのトニー・コクランは「いろんなパーツのあるバンドだからこそビッグになった」と説明する。
ストーンズは最年少のギターのロン・ウッドでも71歳。全員70代のバンドが世界で元気に公演している。「最強」である理由の一つで、まだまだ走り続けるようだ。会場でキースの言葉を見つけた。「このバンドとプレイするのが、いまだに楽しくてたまらない。手放すわけにはいかないな」
同展は5月6日まで。
(諸岡良宣)
[日本経済新聞夕刊2019年3月26日付]
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