平田オリザ、創作の集大成 兵庫・豊岡で演劇大学準備

トークイベントでの平田(左)。中央は滞在アーティストでフランスの劇作家、パスカル・ランベール(2018年)=igaki photo studio撮影、城崎国際アートセンター提供
トークイベントでの平田(左)。中央は滞在アーティストでフランスの劇作家、パスカル・ランベール(2018年)=igaki photo studio撮影、城崎国際アートセンター提供

劇作家・演出家の平田オリザが兵庫県豊岡市に移住する。創作拠点を移すだけでなく、同市に開学予定の演劇大学の準備など「キャリアの集大成」となる事業に取り組む。

豊岡市は大阪から特急列車で2時間半ほど。日本海に面した兵庫県北部に位置し、城崎温泉などで有名だ。人口8万人の「小さな世界都市」(中貝宗治市長)をスローガンに、東京を経由せず直接世界につながる街づくりの柱の一つとして演劇を位置づけている。

平田は城崎温泉にある舞台芸術作家のための滞在型創作施設「城崎国際アートセンター(KIAC)」の開設に関わり、2015年、同センターの芸術監督に就いた。市立学校での演劇を使った教育プログラムも監修するなど地域との関係を深めてきた。

劇団の移転先に

かねて「東京は消費の場であって、創作の場ではない」と主宰する劇団「青年団」の移転を模索してきた平田。数ある地方都市の中で豊岡を選ぶ決め手となったのは「演劇界にとって悲願だった日本初の演劇を学べる国公立大学の計画が持ち上がったこと」だ。

平田は複数の大学で指導経験があり、青年団からも松井周、三浦基、岩井秀人、前田司郎、多田淳之介など多くの演劇人が輩出したが「民間で人材を育成することの限界を感じていた」。文化行政や教育など演劇の世界にとどまらない活動をしてきた平田にとって、自身のノウハウや哲学を具体化できる新設大学の存在は魅力的に映ったようだ。

平田が学長候補として準備を進める県立国際観光芸術専門職大学(仮称)は今年、文部科学省に設置認可を申請し21年4月に開学を予定する。演劇を全学生必修とし、演劇の手法を取り入れたカリキュラムで舞台芸術のアーティストやアートマネジメント、地元から要望の多い観光人材の育成を目指す。

すでに教員の面接などを行っている平田は「高い専門性を持った人たちから応募があり、想定よりも充実した陣容になる」と笑う。大学を中心に舞台芸術の人材育成では「(豊岡を含む)但馬が一人勝ちになる」と自信をみせる。

街から海外に発信

大学設立が順調に進めば、青年団以外の劇団も拠点を構えることが期待でき、舞台芸術に関わる人材が集積することになる。こうした人材を生かす舞台がKIACや近畿最古の芝居小屋である永楽館、平田が来年開く新劇場などを会場とする国際演劇祭だ。

演劇人として国際的に評価され、海外での創作や日本語教育にも携わってきた平田がプログラムを編成することで、欧州のプロデューサーや評論家なども集まる世界的な発信力のある演劇祭を育てる。目標は「10年後、(世界最大級の演劇祭)アビニョンと同等に」。

国内でも富山県南砺市(旧利賀村)の利賀フェスティバルに始まる国際演劇祭の歴史があるが、城崎温泉を中心に富裕層を含め多くの客に対応できる立地を生かし、より大規模な国際的フェスティバルの実現を目指す。今秋、プレ公演として数演目を上演し、20年から本格的な演劇祭とする。

学生や教員にとっては新大学で扱うアートマネジメントのノウハウや理論などを実践する格好の場だ。「(学生や教員を含め)若い演劇人が国際的な演劇マーケットに身を置くことで、海外で活躍するきっかけにして」もらう狙いもある。

劇作家・演出家としても「東京を離れることで新作にじっくり取り組む環境ができた。最先端のものを作り続けたい」。自宅を構えた豊岡市江原地区には商工会館の建物を改築し、来年までに青年団の拠点と150人規模の客席を持つ劇場を開設。新劇場では全国に比べ欧米からの観光客が多い豊岡の特徴を見据え、外国人も楽しめる作品の上演も予定する。

「地方の小都市がそう簡単に海外に発信力を持つことができるのか」。これまでの豊岡の歩みを知らない人の目にはそんなふうに映るかもしれない。だが、14年にオープンし、演劇を軸にした街づくりの先駆けとなったKIACにはこの5年で15を超える国と地域から30以上の国外の個人・団体が滞在。平田が「こんなに成功するとは」と驚くほど、舞台芸術の世界では海外にも「城崎」の名が届きつつある。

地元では「『演劇の街』と言われても、市民の理解が追いついてない部分がある」との声もあるが、ゆくゆくは同市を日本の「演劇の中心地にする」ともくろむ平田の取り組みは着々と進む。

(佐藤洋輔)

[日本経済新聞夕刊2019年3月18日付]

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