映画『岬の兄妹』 気概にあふれた裸の映画
この映画を見てしまうとふだんに見ている日本映画は、上手な、きれいな、おしばいにすぎないのだなあと思えてくる。それほど強烈な、むき出しにものがたりをかたる映画なのだ。文学的な気どりや、こじゃれた隠喩法など糞(くそ)食らえ、といった気概にあふれた裸の映画だ。映画に〈夢〉だけをもとめる人には、嫌われるかも知れない。
海辺のまちにくらす兄と妹のものがたりだ。兄の良夫(松浦祐也)は、片足がわるい。はたらいていた造船所のリストラの際、まっ先に対象になる。
妹の真理子(和田光沙)は、知能に障碍(しょうがい)がある(プレス向け資料では「自閉症」とされているが)。世話をしていた母が死んだあと、良夫が家にもどって、めんどうを見ているという状況らしい。
しごとに行くとき、良夫は外から錠をかけるが、真理子はよくぬけ出す。いなくなった妹を、足をひきずりながらさがしまわる良夫から、映画ははじまった。
その夜、遅くに、知らない男から連絡があり、真理子を保護してくれていた。親切な、と思ったが、家に帰ったら、真理子のポケットから1万円札、下着には男の精液がついていた。真理子は、これを「冒険」とよぶ。
解雇され、追いつめられた良夫は、真理子に「冒険」させてカネをかせぐ決断をする。真理子は、これを苦にするでもなく、むしろ嬉嬉(きき)としている。さまざまな客と出会う、地獄の日々…。
兄妹役の松浦祐也と和田光沙の役者根性に脱帽。
監督は、これが長篇第1作の片山慎三。脚本、製作、編集もかね、2年をかけてすこしずつ撮っていったという。ポン・ジュノと山下敦弘の助監督経験がある。
シネマスコープの比率の撮影(池田直矢、春木康輔)が非常にすばらしく、醜悪なものがとびかう画面を美しくたもっている。1時間29分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2019年3月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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