映画『グリーンブック』 黒人の勇気、白人の敬意
米国では人種差別が合法の1962年。黒人が利用可能な施設を記す旅行案内本「グリーンブック」を持参して深南部へ演奏旅行に出た高名な黒人ピアニストと、彼に雇われたイタリア系運転手兼用心棒のイイ感じの実話がモデルの道中記。今年の第91回アカデミー賞作品賞を受賞した。
ニューヨークのナイトクラブの用心棒トニー"リップ"バレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)はカーネギーホールの上に住むピアニスト、ドクター・ドナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ/アカデミー賞助演男優賞受賞)の演奏旅行の運転手兼用心棒に雇われた。
ドクター・シャーリーは9歳からソ連で英才教育を受け、博士号を持つ。トニーは、妻ドロレス(リンダ・カーデリーニ)が黒人をもてなしたグラスを捨てるような男だが、妻子を養うために仕事が欲しかった。
旅する二人には差別と偏見が待ち受ける。その痛みに誇りを持って耐えるドク(ドクター)は、見事なピアノでトニーの心を動かした。そんなトニーの人柄の良さに気づくドクは、妻と約束した手紙を書くのに四苦八苦のトニーを見て、彼の思いを美しい言葉に替えて綴(つづ)らせた。その一方、ドクは不幸な事件で逮捕され、そこへロバート・ケネディ司法長官の助けが……。
黒人なら知っていて当然のチャビー・チェッカーを知らず、フライドチキンを食べたこともないというドクにトニーがあきれれば、黒人への白人の思い込みが腹立たしいドク。それでも自分の音楽を聴かせたくて危険な旅に出たドクの勇気にトニーは改めて敬意を抱く、というように、黒人の置かれた状況への批判をハリウッド的人情ドラマに仕立てた構成の巧(うま)さでアカデミー賞脚本賞も受賞した。
ドクに初めて会ったドロレスは彼に囁(ささや)いた。「美しい手紙をありがとう」。これがホントのちょっといい話!2時間10分。
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2019年3月1日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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