ベトナムの本格バインミー 間借り営業でファンつかむ
次は何が食のブームになるか? そんなことを考えるときに、よぎるのがベトナム料理だ。ただ、生春巻きなどではなく、ベトナム式のサンドイッチ「バインミー」は、おいしい専門店が増えていて注目だ。
バインミーはコッペパンサイズのバケットにレバーなどのパテ、ハム、野菜、大根とニンジンの甘酢漬けなど挟んだものが多い。
東京・南青山の雑居ビルにランチタイムだけ営業している「ロータスデリ」は、バインミー好きに紹介したい店だ。パテや野菜などの具材のチョイスの良さはもちろん、一番の理由なのがパンの食感だ。
筆者の好みだと断っておくが、バインミーは、いわゆるバケットを切ったものではなく、小さな両端が残る小さなバケットが使われているのがおいしいと思う。フランス式のサンドイッチ「カスクルート」にも同じ印象を持っている。
一番の違いは歯切れの良さにある。バゲットだと、もっちりしていて、歯切れが悪い。この店のバインミーで使われているパンには適量の米粉がブレンドしてあり、具材と一緒にサクッとかみ切れる。その歯触りがなんとも心地よい。
営業が午前11時30分から午後3時までなのは、「bar Ripen(バー ライペン)」を間借りしているからだ。ロータスデリのオーナー町田八重子さんは、夫の転勤先のシンガポールで6年間過ごした。ホームパーティーの機会が多く、大人数の料理をする機会が多かった。そうした経験を活かして帰国後にケータリングの仕事を始めた矢先、友人であるバーのオーナーにランチ営業を任された。
ランチだけなら用意した具材を挟んで提供するバインミーを思いついた。メニュー化にあたり、パンの食感にはこだわったという。
バインミーは「スパイシービーフ(レギュラー600円、ジュニアサイズ400円)」など複数の種類があり、価格は手ごろ。ジュニアサイズを2個食べて味比べをしても楽しい。
「当初はバインミーとヤムウンセン(タイ風春雨サラダ)のみで営業していたが、お客様からご飯ものの要望が多く、ガパオライス(タイ風ひき肉ごはん)や、チャーシューご飯などを用意した。すると客足が増えた」と町田さん。
オープンして2年が過ぎたが、現在は多い時で月商40万円と健闘している。
"知る人ぞ知る"的なメニューの業態を立ち上げるなら、間借り営業は魅力的だ。ロータスデリもバインミーだけで、同じ場所で開業していたらファンがつく前に経営に行き詰まったかもしれない。テストマーケティングを兼ねた営業と考えれば、ご飯もののニーズをつかんだのは成功だ。
バインミーの認知度も上がってきており、売れ行きも右肩上がり。売り切れる日も多い。
「手応えを感じているので、資金がたまったら常設のお店を出す予定だ」と話す町田さん。何が当たるか分からない食の世界。腕試しをするなら、間借り営業は魅力的だ。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2019年3月1日付]
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