フワリ香りうまみ引き出す 神戸の酒かす、鍋や菓子に
神戸市には日本を代表する酒どころ「灘五郷」を構成する人気の酒蔵が多い。日本酒造りでできる酒かすも良い香りや栄養素を含んでいる。酒かすは甘酒の材料として知られるが、食材のうまみを引き出すとされる効果を生かし、冬場の鍋など料理に活用する動きが目立ってきた。
背丈近くある大きな板から白い酒かすをはがす。神戸市東灘区で日本酒「福寿」を製造する神戸酒心館の酒蔵の光景だ。原料米を発酵させたもろみから酒を搾った後に酒かすができている。
同社がレギュラーと呼ぶ一般的な酒かすは、原料米の約30%が酒かすになり、たんぱく質やビタミンB1、B2などを含む。福寿の純米吟醸酒がノーベル賞の晩さん会に提供されているが、酒心館副社長の久保田博信さん(43)は「酒かすを料理に生かす文化ももっと知ってほしい」と話す。
酒心館の敷地内の日本料理店、さかばやしはこの時期、福寿の酒かすに白味噌やだしを合わせた「酒屋鍋」が定番だ。大根やニンジン、ブリなどの具材を入れて10分弱。ふたを取るとふんわり酒かすのいい香りが立ち上る。一方で魚や野菜の味はしっかり生きている。店によればアルコール分はごくわずかという。
久保田さんはここ5年ほど、さかばやしで酒かすを使ったメニューを増やしたり、東灘区内の岡本商店街と連携したりして酒かすの料理への利用の輪を広げている。
和歌山県産の野菜を料理に使う岡本駅近くのカフェ、グリーンフィールドも昨年2月の酒心館と商店街の連携企画の折に、酒かすを「ごろごろ野菜の粕(かす)汁セット」で使い始めた。かす汁は関西では冬場に親しまれてきた。「野菜のお味噌汁セットを応用した」と代表の阪部剛規さん(48)。野菜は約10種類。一般的なかす汁と違い、魚は入れないが、いためた野菜もあり香ばしさを感じる。
和食だけでない。中央区三宮の北側にあるフランス料理店、マツシマは酒かすをスープやケーキなどに使う。代表取締役の松島朋宣さん(42)は「酒かすを使うと、フランス料理の食材の素材感も伝わりやすい」と評価する。
酒かすのショコラは、3月のコース料理のデザートにする。しっとりした食感で酒かすのいい香りがほんのりとしつつ、ミルクチョコレートが効いてやさしい味だ。
輸出増も期待される日本酒。酒心館の久保田さんは「酒かすも有効利用するエコな側面」も発信できればと望む。
日本酒造りでできる酒かすは酒の種類によって風味などが異なるという。神戸酒心館では、コメを削る度合いが特に大きい大吟醸酒の酒かすの場合、原料米の約半分が酒かすになる。一般的な本醸造酒や純米酒からできる「レギュラー」より酒かすになる比率が高いのは、雑味を抑える大吟醸の特色を生かすため、もろみを搾りきらないなどの理由がある。同社では、香味のある大吟醸酒は酒かすも比較的香り豊かで甘酒などに適している一方、レギュラーの酒かすは料理に向く場合が多いとみている。
(神戸支局長 福田芳久)
[日本経済新聞夕刊2019年2月28日付]
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