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基幹労連は「65歳への定年延長」など、労働環境の改善に向けた考え方をとりまとめた(大津市、18年12月)

基幹労連は「65歳への定年延長」など、労働環境の改善に向けた考え方をとりまとめた(大津市、18年12月)

春闘の季節を前に「実質賃金」を巡る論争が盛り上がっている。日本の平均賃金は適正な水準なのか。データを基に論じる著作を手に取ると、賃上げに慎重な日本企業の実態が浮かび上がる。

首都大学東京教授の脇田成著『日本経済論15講』(2019年1月、新世社)は経済の基本を学べる教科書シリーズの一冊だが、随所に独自の視点が盛り込まれている。日銀による異次元金融緩和には「なぜ物価は上がらなかったか」と切り込む一方、安倍晋三首相による賃上げ要請には好意的な見方を示す。バブル崩壊後、日本企業は「さながら要塞を固めるように」銀行から借金をせず、人件費を抑えてきた結果、内部留保を中心に企業の純資産が積み上がった。企業が賃上げをすれば家計の所得が伸びて消費が増え、非製造業を中心に投資も増える。企業の純資産が減り、国の財政支出が増えなくなれば財政再建も進む――。著者はこんな好循環を思い描く。

元証券アナリストのデービッド・アトキンソン氏も『日本人の勝算』(19年1月、東洋経済新報社)で、日本経済を立ち直らせるには継続的な賃上げが必要と訴える。日本企業は労働者の低賃金を背景に値下げ競争に走り、人口減少とも相まって経済にデフレ圧力を加えていると分析したうえで、政府は最低賃金の引き上げを通じて企業を追い込み、労働生産性の向上を促すべきだと強調する。

経済学界には「最低賃金を引き上げると雇用が減る」という有力な仮説がある。『最低賃金改革』(13年7月、日本評論社)の編著者の一人、鶴光太郎・慶応大学教授は「日本では最低賃金を引き上げると、その影響を受けやすい労働者の雇用に負の効果を見いだせる」との実証分析を紹介し、最低賃金を引き上げるにしても「なるべく緩やかな引き上げにとどめ、特定のグループが過度な負担を負うことがないようにする」よう求める。同書の編著者に名を連ねる川口大司・東京大学教授も「その後も同様な実証分析が続き、同書の主張は現在も有効」と説明する。

脇田氏は雇用者報酬の9割近くを占める正社員の賃金をまず引き上げ、最低賃金にも波及する形が望ましいと指摘する。日本経済に好循環をもたらすには何が必要か、論点は絞られつつある。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2019年2月23日付]

日本経済論15講

著者 : 脇田 成
出版 : 新世社
価格 : 2,484円 (税込み)

日本人の勝算

著者 : デービッド・アトキンソン
出版 : 東洋経済新報社
価格 : 1,620円 (税込み)

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