映画『THE GUILTY/ギルティ』 音が醸す緊張
映画が音を表現手段に取り入れて以来、音声が物語上で大きな役割を果たすのは珍しくない。近年では携帯電話の普及で、物語上での音声の役割が増える傾向にある。そんな音声を中心に、サスペンスフルな物語を巧みに構成したデンマーク映画である。
舞台は警察の緊急通報司令室。全篇(ぺん)にわたりカメラはこの司令室から一歩も外に出ることはない。主人公は元刑事のアスガー(ヤコブ・セーダーグレン)。
ある事件をきっかけに捜査の第一線から外され、緊急通報司令室に左遷された事情を抱えている。
そんなアスガーのもとに1本の電話が入る。車で誘拐された女性の携帯からの通報だった。アスガーは情報を聞き出しながら、緊急手配をするが、北部の島に向かって走り続ける車を見つけることができない。やがて彼女の幼い娘の口から、彼女を連れ去ったのは元夫だと知れる。
物語のすべてはアスガーのヘッドホンから流れる相手の音声と、その音声に応えるアスガーの言葉のやりとりから展開する。ラジオドラマのように、音声は聞く人の想像力をかき立てる。例えば、通話が突然切れたり、音声の背後に聞こえるサイレンなど物音から緊迫感が膨らんでいく。
その一方、アスガーの抱える事情が次第に明かされる。彼は捜査で犯した案件で法廷に出頭しなければならない。だが、誘拐された女性を助けるため、緊急通報司令室員の立場を踏み越えて、別室にこもって独自の捜査を始める。
監督・脚本は、スウェーデン出身のグスタフ・モーラー。これが長編デビュー作となる。室内のアスガーの表情と彼がやりとりする音声だけで紡がれる物語から、一方でサスペンスを醸し出し、他方で主人公の心理的な葛藤を描き出して、両者を重ねていく演出手腕は見事というほかない。1時間28分。
★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2019年2月22日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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