「滑舌が悪くなった」「会話中に唾が飛ぶ」――。こんな様子があれば、口の機能が低下している兆候だ。放置すると、低栄養や病気、全身の虚弱などの原因にもなる。予防法や改善法を専門家に聞いた。
硬いものが食べづらい、食べこぼす、自分の唾液でむせる、滑舌が悪くなるなど、口の機能低下の兆しが表れる状態は「オーラルフレイル」と呼ばれる。東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科の平野浩彦部長は「40代後半以降に兆候が表れる人が増える」と指摘する。見過ごしていると、軟らかいものばかり食べる、筋力が低下する、そしゃくしづらいという悪循環に陥り、口の機能が一層低下する。
大きな要因は舌や口周りの筋力の低下。「飲食や会話の際は舌やほお、下あごなど様々な部位をタイミングよく連動して動かす必要がある。そのためには、舌や咬(こう)筋などに十分な筋力が必要だ」と日本歯科大学教授で、同大学口腔リハビリテーション多摩クリニックの菊谷武院長は説明する。虫歯や歯周病、あわない入れ歯など、歯のトラブルが原因の場合もある。
口の機能を保つことが重要視され、2018年の診療報酬改定では、65歳以上に対する「口腔(こうくう)機能低下症」の検査や治療などが保険適用になった。加齢などが原因でそしゃくや飲み込み、唾液の分泌などの機能が低下する病気を指し、進行すると、食べ物が誤って気道に入って起こる誤嚥(ごえん)性肺炎などの原因にもなる。
オーラルフレイルはQOL(生活の質)と寿命に影響を与える。千葉県柏市で実施した大規模調査によると、オーラルフレイルのある高齢者は、全身の虚弱や筋力の衰え、要介護状態になる危険性、死亡のリスクが、問題のない人の2倍以上に達したという。
予防には若い頃からの心がけが大切だ。「まず、しっかりかめる歯と歯茎を保つ。歯磨きで口の中を清潔にし、定期的に歯科医院で検診を受けて」(平野部長)
同時に、ウオーキングや筋トレで全身の筋力の維持を図る。菊谷院長によると「舌の筋肉の量は、骨格筋の量と相関することがわかっている。口腔機能が衰えた高齢者に舌のトレーニングをすると、骨格筋量が多い人ほど効果が表れやすい」という。