食事や栄養の心配事 コンビニなどで気軽に相談
コンビニに併設 介護食や献立のコツ習う
健康のためにバランスのよい食生活が大事だと分かっていても、思うようにいかない人は多いはず。栄養や献立づくり、料理のコツをもっと知りたい。そんなときに気軽に相談できる場が「栄養ケア・ステーション(CS)」だ。専任の管理栄養士がいて、体調や事情に合わせて助言してくれる。これまで接点が少なかった食や栄養の専門家と直接話せる機会が増えれば、健康づくりにも役立ちそうだ。
「おばあちゃんの食べる量が減って心配です」「いつぐらいから? 何かきっかけになる出来事はありました?」――。薬局を併設したローソン千駄木不忍通店(東京・文京)の一角で、買い物帰りの20歳代の女性が相談を持ちかけていた。
店内にあるのは日本栄養士会が認定した栄養CS「龍岡栄養けあぴっと」。病院や介護施設を運営する法人が手掛ける。原則として毎週水、金曜日に管理栄養士が常駐。食と介護どちらの相談も受けられる。
管理栄養士の吉田美代子さんは「ふらっと立ち寄るコンビニのような場所だと、気軽に話せる。栄養について考えるきっかけになるのでは」と語る。相談しやすい雰囲気をつくろうと、椅子に座って取り組める体操や「野菜を知る」をテーマにしたイベント、筋力測定会も定期的に企画する。
イベント後に参加者から悩みを打ち明けられることも。普段の食生活上の注意点など10分程度の相談は無料で、レシピ・献立づくりや個別訪問による食事相談、栄養計算などは有料だ。
栄養バランスに注目した少人数制の料理教室「えがおクッキング」を始めたのは認定栄養CS「アン・サンテ」(京都府宇治市)を創業した管理栄養士、島田淳子さん。「時短」「減塩」「介護食」などテーマに沿った調理のコツを伝授する。月に3~4回開催し、参加費は当面、1回当たり2000円。
「料理の基本から学べ、日ごろの困り事も相談できる場にしたい。目指すは食の何でも屋」(島田さん)
適度な運動の指導と栄養相談を合わせて提供する試みも広がりそう。配食や買い物支援を手掛けるモルツウェル(松江市)の認定栄養CS「@三河屋」は、地元のスポーツジムと協力した出張講座を始める方向で検討中。アン・サンテもヨガと栄養相談の教室を準備しているという。
糖尿病や腎臓病で栄養指導・食事制限を受けている人や介護が必要な高齢者にとって、栄養ケアはより差し迫った問題だ。一方で「病院で栄養指導を受けたが、もっと詳しく聞きたい」「とろみの付け方など具体的な調理法を教えてほしい」といった要望も多い。
こうした声を受け、介護食の通信販売を手掛けるヘルシーネットワーク(東京都日野市)の認定栄養CS「つながる」は毎週3回、電話相談にも応じる。ダイエットから糖尿病患者の減塩メニューの作り方まで1日あたり15~20件の問い合わせがあるという。
病院で指導を受けている人なら、カロリー摂取の目安といった具体的な情報や毎日の食事の記録などを持参すると、相談がスムーズに進むという。内容に応じて、他の栄養CSや関係機関を紹介することもある。
責任者の管理栄養士、中村玉絵さんは「『食事や栄養の心配事をどこで相談できるかが分からない』とよく聞く。地域にも相談できる場所があると知ってほしい」と強調する。
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認定制度も 知名度が課題
栄養CSの取り組みは2002年に開始。生活習慣の改善を促す「特定保健指導」の担い手にも位置付けられ、都道府県の栄養士会などが普及に努めてきた。全国に約230カ所ある。
日本栄養士会は15年から、一定の条件を満たす拠点を認定する制度の創設に向けてモデル事業に着手。18年には本格的に制度を導入した。
認定を受けたのは18年9月時点で72カ所。運営するのは病院・診療所が3割、薬局が3割程度を占め、残りは企業や大学などだ。利用費は医療や介護の一環で保険適用となる部分もあるが、それ以外では例えば個別の栄養相談だと1回2000~6000円が多い。
一方で普及に課題もある。栄養CSの認定制度にも関わる関東学院大学の田中弥生教授(臨床栄養学)は「栄養士が一般の人と直接話す機会は少ない。栄養士のスキルの底上げも必要だ」と指摘する。サービスの質を高め、収益も確保しながら続けられる事業モデルが求められる。
(河野俊)
[日本経済新聞夕刊2019年2月20日付]
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