米粉とろり うまみ包み込む、茨城・龍ケ崎のコロッケ
茨城県龍ケ崎市。県南部の商業地として栄えたが、商店街はシャッターが下りたままの店も多い。市が活性化策として2000年に開設した漫画図書館に集まってくる子供たちに「大人になっても懐かしく思い出に残るようなものを食べてもらいたい」と市商工会女性部が手作りしたのが「龍ケ崎コロッケ」の始まりだ。考案した吉田京子さん(76)は「昔、学校の帰り道に食べたコロッケの味が忘れられなかった」と当時を振り返る。
03年に「コロッケクラブ龍ケ崎」が発足し、25店が加盟した。だがコロッケは手間がかかる半面、価格は安い。加盟店は徐々に減っていった。発足から10年たった13年、新たなコロッケ作りに動いた。地元産米に目をつけ、丸めて揚げてみたが「もう一度食べたいという味ではなかった」(クラブの飯島進会長、48)。試行錯誤の末、米粉を使ったクリームコロッケにたどり着く。ダマになりやすい小麦粉よりも簡単に調理できた。
14年にはインターネット上の「ご当地メシ決定戦!」で関東代表になり、九州・沖縄代表の「チキン南蛮」などを引き離して日本一となった。加盟店数も戻りつつある。
吉田さんが代表を務める龍ケ崎まいんコロッケは約10種類を販売する。「ライスクリームコロッケ」はサクサクの衣の中にとろっとした米粉のクリーム、しゃきしゃきとしたレンコンやゴボウが入っている。子供だけでなく、年配者にも受けそうだ。変わり種も多く、ハート形の「りんごコロッケ」は刻んだりんごがさわやかな甘さ。「初恋の味」(吉田さん)だそうだ。
飯島会長が代表を務める高橋肉店も「おコメのクリームコロッケ」「ばぁちゃんコロッケ」などを売る。「常陸牛コロッケ」は薄めの衣をまとったじゃがいもに焼き肉のたれがかかったブランド牛の切り落としが入っている。どれもそのままで十分おいしいが、地元のしょうゆ屋が開発したとろみがある専用のしょうゆをかけると甘みが引き立った。
野菜ソムリエの酒井一さん(44)が営むレストラン、しゃんしゃん龍は11種類の野菜が入ったコロッケがメインのランチを提供し、「女性客を中心に人気」という。地元の味噌を隠し味に使ったトマトソースが米粉のクリームの優しい甘さを引き出している。夜は単品でも注文できる。
図書館は18年に閉館するなど厳しい状況は続く。クラブは研究会を開き、試行錯誤を重ねる。「市内の全飲食店でコロッケを扱ってもらうのが目標。東京五輪で世界に発信したい」(飯島会長)。思いはコロッケのように熱い。
「龍ケ崎コロッケ」は茨城県ではグルメによる街おこしの草分け的存在とされる。同じくコロッケで街おこしに取り組んでいる富山県高岡市や静岡県三島市と連携し、「全国コロッケフェスティバル」を開くなどイベントにも力を入れている。
2017年には特許庁が「龍ケ崎コロッケ」を地域ブランドの育成を目的とした地域団体商標に登録した。コロッケは米粉など地元食材をなるべく使うのがルールだが、厳密な規定はない。わかりづらいとの指摘もあるためブランドの確立を目指している。
(つくば支局長 浅沼直樹)
[日本経済新聞夕刊2019年2月14日付]
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