インフル薬「救急では出さない」病院も 重症者を優先

医療資源に限り

「正しく知ろう、インフルエンザ」――。神戸市立医療センター中央市民病院(同市中央区)はこう題したポスターを救急外来に貼り、ホームページでも掲載している。綿棒で鼻水を採取して調べる迅速検査や、治療薬の処方は普段健康な人には原則行わないと宣言する内容だ。

救急科の松岡由典・副医長は「診療の標準化と患者とのトラブルを回避するため」と説明する。以前から迅速検査を求められても、重症化するリスクが低いと判断した場合はかかりつけ医などを受診するよう促してきた。ただ医師の対応にばらつきがあり、トラブルを生みかねなかった。

このため感染症内科や感染制御チーム(ICT)とともに話し合って共通の方針を決定した。松岡副医長は「医療資源が限られるなか、救急外来で全てのインフルエンザの患者に対応するのは限界がある」と指摘する。

医師不足が深刻な地域は特に危機感が強い。四国中央病院(愛媛県四国中央市)は14年に救急外来で同様の方針を打ち出し、平日夜は市内の急患センターの受診を求める。

救急を担う小児科医が少ない中で、自治体からの助成で医療費の負担がほとんどない小児患者の利用が増加。小児科医の負担が増大し、辞める医師もいた。周辺医療機関との共同調査で、救急外来の受診者の大半が軽症とも判明。緊急を要する患者の受け入れが不可能になる懸念があり、こうした方針をとっている。

日本感染症学会が11年にまとめた治療薬使用に関する提言は、基礎疾患のない人も重症化して死亡する例があると指摘。こうした病院の対応を推奨しているわけではない。

同学会インフルエンザ委員会の石田直委員長は普段健康な人への治療薬投与については「医療界でも意見が分かれている。患者の状態を見ながら判断すべきだ」と話す。11年以降の知見などを踏まえ、19年中に新たな提言をまとめるという。

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救急搬送 20年で1.7倍に

総務省消防庁によると、2017年に救急搬送された人は573万人。20年前の約1.7倍で、17年まで9年連続で増加している。高齢化などで今後も増加が続くとみられ、救急外来の負担は膨らむ。

搬送された要因をみると、この20年で交通事故が21.2%から8.1%に減少。一方で急病は53.2%から64.3%に増えた。搬送者の約6割を高齢者が占めている。

救急医療を担う医療機関は大きく3つに分類される。軽症者には休日夜間急患センターなど「初期(1次)救急」が対応。入院や手術が必要な人は「2次」、より重篤な疾患や重傷者は高度救命救急センターなどの「3次」が受け入れる。

制度上は1次を受診した患者に入院や手術が必要な場合、2次や3次につなぐことになる。ただ症状の判断がつかず、インフルエンザの疑いで2次を受診する患者も多い。

極めてまれだが、健康な人でも重症化する例がある。本人や周囲が▽意識がもうろうとする▽意味不明な行動をする▽けいれんが続く▽呼吸が苦しい――などの症状を感じたら、ためらわず救急車を呼んだほうがいい。

(藤井将太)

[日本経済新聞朝刊2019年2月11日付]

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