映画『ナポリの隣人』 親子の苦さと貴さ、冷徹に
『小さな旅人』(1992年)で親と引き離された子を、『家の鍵』(2004年)で子を手放した親を描いたイタリアの名匠ジャンニ・アメリオ。その新作は親子が親子であること、家族が家族であることの苦さと貴さを、確執のある父娘の感情のざわめきの中にとらえた傑作である。
元弁護士のロレンツォ(レナート・カルペンティエーリ)は気難しく、長女のエレナ(ジョヴァンナ・メッゾジョルノ)とうまくいっていない。妻を亡くし、広いアパートに独り暮らし。心臓が悪いのに、薬をのまない。アラビア語の法廷通訳として働くシングルマザーのエレナとは、愛人の存在を知られて以来、口もきかない関係になった。そんな時、隣室に引っ越してきた若い家族と知り合う。
孤児として育ちながら快活な妻のミケーラ、造船所で働く夫のファビオ、2人の子供。ミケーラに食事に招かれたロレンツォは家族のようにくつろいだ時間を過ごす。不慣れなナポリで新しい家庭を築こうとする若夫婦の姿に心が和む。
事件は突然起こる。ファビオが子供2人を撃ち殺し、自殺したのだ。ミケーラも意識不明の重体。ロレンツォは病院に「父」だと偽って、枕元に付き添う。
病院でファビオの母親の告白を聞き、ロレンツォは自身と娘の関係を顧みる。エレナも、姿を消した父を捜しながら、父を許せなかった自分を見つめる……。
ネオレアリズモの継承者であるアメリオの家族へのまなざしは冷徹だ。ロレンツォだけでなく、どの登場人物も円満な家族関係を築けていない。どの親子も互いを理解できず、理解されていないと感じている。
そんな苦い感情が生じるのも、家族であるがゆえだということが見えてくる。関係を簡単に切れないからこそ、期待も失望も大きい。祈りにも似た終幕にアメリオの現代を見る目が光る。1時間48分。
★★★★★
(編集委員 古賀重樹)
[日本経済新聞夕刊2019年2月8日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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