映画『サスペリア』 肉感的な描写でリメーク
ダリオ・アルジェント監督のホラーの名作『サスペリア』(1977年)を、『君の名前で僕を呼んで』(2017年)で世界的な評価をえたルカ・グァダニーノ監督がリメークした。
意外な組み合わせだが、71年生まれのグァダニーノにとって『サスペリア』は映画的原点となる体験で、リメークは宿願だったとか。これは、きわめて興味深く見ごたえあるこころみだ。
時代設定は、オリジナル作品がつくられた77年。舞台は同じドイツだが、東西の壁があったベルリン。米オハイオ州から来たスージー・バニヨン(ダコタ・ジョンソン)が、雨のなかをマルコス・ダンス・カンパニーにたどり着く。
基本のスジ立ては77年作に沿っているのだが、手ざわりはまったく別ものなのがおもしろい。目立つちがいは、テロやドイツ赤軍派のハイジャック事件で騒然とし、かつ第2次大戦の傷がのこるベルリン、という背景から不穏な空気を思いきりくみあげていることと77年作では、バレエ団が舞台だが、バレエの描写はそれほどなかったのに対し、ここではコンテンポラリー・ダンスが重要な役わりをはたしていることだ。
グァダニーノの描写は、つねに肉体的であり肉感的だ。ティルダ・スウィントン演じる振付師マダム・ブランの指導でくりかえされる力感あふれるダンス(まるで拳法のような)とともに、暴力的な脅威と魔力がスージーを呪縛する。
リアリズム的な絵のつくりかた、地道に描写をつみあげていく行きかたもグァダニーノのものだ。アルジェント作の華麗な色彩と閃光(せんこう)のような描写とは無縁。
作家的体質では、正反対といえるほどの両者だが、このリメークの誠実さは疑いようもない。どこに共有さるべき核があったのか、見てさぐるのはたのしい。
オリジナルのヒロイン、ジェシカ・ハーパーも出演。2時間33分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2019年1月25日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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