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醸造所や保育園も登場 鉄道ガード下はトレンド発信地

NIKKEIプラス1

2019/1/26付

PIXTA

子育て施設の隣に斎場、ビール醸造所もあれば、旅行者が集まるゲストハウスまで。鉄道のガード下が装いを変えている。鉄道線路の高架化で生まれた空間は、時代を映しながら、様々に有効活用されている。

JR武蔵境駅(東京都武蔵野市)から西に向かって伸びるガード下。かつては「開かずの踏切」が問題になった中央線が高架になったその下に2018年2月、日本で一番小さいクラフトビール醸造所が誕生した。

「この奥が醸造所です」。26Kブルワリーを経営する見木久夫さんが案内してくれたのは和室の6畳ほど、わずか10平方メートルほどのスペース。コンパクトながらも必要な醸造装置がぎゅっと詰め込まれている。

大人が2人入れば動きづらいほどの狭さだから、年間に造れるのは60キロリットルだけ。立派なステンレス製の醸造タンクはとても入らないので、「ラーメン店で使うスープ鍋で代用している」(見木さん)。

中央線の三鷹―立川間は踏切が多く、交通渋滞や事故の原因になっていた。高架にする事業は12年に終了し、JRがガード下の一部を店舗用に賃貸し始めた。見木さんにとってビール醸造は初挑戦。「賃料が安くスタートが切りやすかった。ガード下発で事業を拡大したい」と話す。

池井戸潤原作のドラマ「下町ロケット」の舞台となった東京・大田に19年春、ものづくりの複合拠点が誕生する。場所はガード下だ。

区内には高い技術力を持つ町工場が多い。最近は周辺に移り住む若手のデザイナーも増えている。10年に高架化した大森町―梅屋敷駅間のガード下を京浜急行電鉄が提供し、工業製品の試作工房や共同作業スペースなどを設ける。町工場と若手人材を結びつけるインキュベーターのような空間になる予定だ。

従来の少し薄暗いガード下の印象を変えるような施設が相次いで出てきているのはなぜだろう。建築評論家でガード下の歴史に詳しい小林一郎さんは「今、ガード下には第3の波が来ている」と指摘する。

日本でガード下が生まれたのは明治時代にさかのぼる。注目を集めるようになったのは終戦直後。東京・上野などに「アメヤ横丁」のようなヤミ市ができた。第2の波は高度成長時代。都心への通勤路線が相次ぎ複々線化され、ガード下も郊外へ。食品スーパーや飲食店などが入り、都心に通うサラリーマンを支えた。そして今の「第3の波」、背景には耐震補強工事や連続立体交差事業がある。

阪神大震災をきっかけとした耐震補強のため、電鉄会社は不法に占拠している店舗などに対し時間をかけて明け渡しを求めてきた。その一方で交通混雑解消のための高架化も進み、新しいガード下が次々と誕生。電鉄各社は投資コストの回収もあり、土地柄に合わせた利用方法に知恵を絞っているというわけだ。

東京の郊外に広がる大規模団地・多摩ニュータウン。京王電鉄グループは17年6月、団地内の多摩センター駅から徒歩3分のガード下に葬儀場を開いた。高齢者の葬儀や墓など「終活」の相談にも対応し、高齢化が進む周辺住民の需要を取り込もうと狙う。

その葬儀場の隣では19年6月のオープンを目指して、保育所「京王キッズプラッツ」の建設が進む。働き方改革で働く場所が都心から郊外へと広がり「リモートワークの在宅勤務やサテライトオフィス勤務が増えた。郊外での保育の需要が高まっている」(京王電鉄広報部)という。

東京五輪などに向け、訪日客の宿泊需要を狙う動きもある。大阪市内では18年2月、南海電気鉄道が難波駅の南のガード下にゲストハウスを開業した。もとは倉庫だった場所に荷物を抱えた外国人客が集う光景は、時代の変化を映し出している。

◇  ◇  ◇

■レタス・シイタケ栽培も

ガード下育ちのシイタケは、近くのスーパーで販売(大阪市)

阪神電気鉄道・尼崎センタープール前駅の高架下には人工照明を利用した植物工場がある。グリーンレタスを毎日1500株栽培しグループの百貨店などで販売する。プロ野球シーズン中には「甲子園球場にも納品している」(野菜栽培所担当の温井見課長)という。

植物工場とガード下は相性がいい。人工照明なので日当たりは関係なし。駅近で雨に濡れずに通えるので人材確保も容易。「急な注文でも電車に飛び乗って届けられる」(同)と三拍子そろう。

同じ阪神電鉄の千船駅のガード下ではシイタケを試験栽培中。ビニールハウスの中には原木がぎっしりと並び、多い日は10キロほどを収穫するという。

(田辺省二)

[NIKKEIプラス1 2019年1月26日付]

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