息子による親の介護 「脱完璧」のすすめ
仕事とは別物 プロの手を借り、孤立は避けて
実の息子が在宅で親を介護する息子介護。男性は家事や介護のスキルが不足している人が多いうえ、周囲の助けを借りるのを潔しとせずに1人で責任を背負い込む傾向が強いとされる。ストレスをため込んだ結果、介護虐待に走ってしまうケースもある。息子介護をする際は、どこに気を付ければいいのか。ポイントを探った。
「介護している親についきつく当たってしまう。どうすればいいか」
「頭にきたときは怒っていい。介護する側がストレスをため込むのが一番良くないよ」
1月中旬。東京都荒川区社会福祉協議会の施設内で開かれた会合「男性介護者サロンM」。在宅で親や配偶者などを介護している男性が日ごろの悩みをざっくばらんに話し、解決法を探る場だ。主催は区内に住む男性介護者を中心につくる「荒川区男性介護者の会(オヤジの会)」。奇数月に開催し、偶数月には介護の知識を学ぶ定例会を開く。
90歳の母親を介護する同会副会長の神達五月雄さん(57)は「困っている状況を聞いてもらうことでストレスが和らぐ。新しい介護サービスなどについて情報交換もできる」と会の狙いを話す。この日は東京都昭島市の男性介護者の会のメンバーも見学に訪れた。
総務省の2017年の調査によると、働きながら介護をする男性は約150万人。実の息子が親を介護する例は増えており、厚生労働省の調査では、16年に息子が介護する割合が、嫁が義理の親を介護する割合を上回った。
だが、息子による介護には特有の難しさがある。「男性に主流の価値観が、時として介護の障害になる」と、男性介護の現状に詳しいケアタウン総合研究所(東京・新宿)の高室成幸代表は指摘する。
いまの中高年男性は、いくら介護で苦しくても「周囲に弱音を吐けない人が多い」(オヤジの会の神達さん)という。「仕事で困難を乗り越えてきたという自負があり、じっと耐えるのを良しとしてきた」(立命館大学の津止正敏教授)のが背景にある。親に自分の弱さを知られまいとして1人で抱え込んでしまうと、大きなストレスの原因になりかねない。
仕事の流儀をそのまま介護にも持ち込みがちなことにも注意が必要だ。仕事を通じて能力を評価されることに慣れていると「介護でもいかに成果を上げるか、効率的にやるかにとらわれる」(高室さん)。
介護も完璧にやろうとし、思うようにならないと自分の能力を否定されたように感じ、落ち込んでしまう。「介護は常に応用問題だと知ること。単純に正解、不正解と言い切れるものではない。今どうするかを考えることが大切」と高室さんは話す。
できないことを無理にやろうとしないのも大事だ。NPO法人となりのかいごの川内潤代表理事は「優秀なビジネスマンほど介護もきっちりできると思い込んでいる」と言う。
現在、在宅で親を介護する男性の中心は50~60代で、一般に家事能力が高くない。介護の必要に迫られ、料理や買い物、掃除、洗濯などをやり始める例も少なくないという。日常介護のスキルも乏しい。その結果、悩んでも気持ちを外に出せず、限界が来て親に手を上げてしまう。「介護虐待は男性に多い」(川内さん)といわれる。
育児とは異なり、介護はいつまで続くかわからない。消耗戦に入ったら、親と向き合う気持ちの余裕が無くなる。介護が必要だと思ったら、早い段階から地域包括支援センターなどに相談し、介護サービスの力を借りることが必要だ。
息子に「24時間介護」を強いるのではなく負担を軽減することが介護の充実につながる。「いかにプロに任せていくか」(川内さん)が、介護破綻を防ぐ上で欠かせない。
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早めの準備と心構えを
息子介護には事前の心構えと準備が大切だ。ケアタウン総合研究所の高室代表は「50代になったら、将来、親を介護するための備えを始めるのがいい」と話す。立命館大学の津止教授は、介護保険制度を勉強したり、地域の介護者家族の会や地域包括支援センターなどに出向いて現状を知ったりすることを勧める。
余裕があれば「ボランティアなどでグループホームや介護施設に行って様子を見ておくのも役に立つ」(高室さん)。日ごろから家事に慣れて、いざというときに困らないようにすることも大切だ。
親に症状が見られるようになったら、ちゅうちょせずに勤務先に伝えることも重要だ。介護休暇や勤務形態などについて勤務先と話し合い、無理なく介護ができる道を探る。早めの対応が、年間10万人といわれる介護離職を防ぐことにもつながる。
(大橋正也)
[日本経済新聞夕刊2019年1月23日付]
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