将棋マンガ戦国時代、プロ編入にかけるアマ棋士の熱戦

「リボーンの棋士」は再起を目指す主人公を明るく描いた(C)鍋倉夫/小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中
「リボーンの棋士」は再起を目指す主人公を明るく描いた(C)鍋倉夫/小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載中

プロ棋士への夢を絶たれたアマチュアが再び棋士を目指す将棋漫画が相次いでいる。将棋界では2006年にプロ編入試験を制度化しており、主人公が難関に挑む物語は漫画にピッタリだ。

「6八桂じゃ…」。勤務中にもかかわらず盤面を脳内に浮かべ、考えをめぐらせる顔には鼻血や汗が流れる。昨年5月から月刊コミックバンチ(新潮社)で連載中のマンガ「将棋指す獣(ケダモノ)」の主人公、弾塚光(だんづかひかり)は22歳。プロ養成機関の奨励会で棋士一歩手前の三段まで昇りながら、不可解な理由で退会したという設定だ。そして再び女性初のプロ棋士を目指す。その姿には熱気や将棋を指す人の独特の雰囲気が漂う。

アマにもプロへの門戸開かれる

「将棋指す獣」で主人公が絶好手を見つける(C)左藤真通・市丸いろは/新潮社「コミックバンチ」連載中

通常、棋士になるには奨励会での厳しい競争を勝ち抜き、26歳までに四段にならなければならない。しかし、2005年、アマにも門戸が開かれた。アマ代表でプロ公式戦に出場して好成績を収めた会社員の瀬川晶司氏(現六段)が特例のプロ編入試験に合格。翌年、編入試験が制度化された。そのうちの一つが同作が描く、奨励会最後の関門「三段リーグ」への編入だ。

テレビやネット中継を見て楽しむ将棋ファン「観(み)る将」である原作者の左藤真通は「奨励会は外から見ている以上に精神的にきつい印象を受ける。中でも三段リーグは別格の雰囲気が漂う」と話す。自身も含めて「ファンはどうして将棋を面白いと感じるのか、また将棋を指すのかという疑問が創作の根本にある。将棋指しを描くことで理解していくのは漫画家独特だ」。作画やネームを担当するのは妻の市丸いろはで、初のタッグを組むことになった。

同時期に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載が始まったのが「リボーンの棋士」だ。元三段の安住がアマからプロを目指す成長物語だ。安住は年齢制限で奨励会を退会。しかし、3年が過ぎ、気持ちに区切りがつき、再び駒を触るようになる。

念頭にあるのは直接、プロ編入試験を受けるルートだ。アマ大会の成績優秀者が出場できるプロ棋戦で10勝以上、かつ勝率6割5分以上の成績をあげると受験資格が得られる。実際、このルートでプロ入りした棋士も生まれている。

31歳で初の連載に挑む作者の鍋倉夫は主人公の境遇を自身と重ね合わせる。「漫画には年齢制限はないけれど、29歳ころ、先が見えずいったん漫画をあきらめようと思った」と振り返る。そんな作者だからこそ、将棋の世界で一度夢破れた人物の姿を描きたいという思いがわいたという。

連載中の将棋漫画は10以上

現在、連載中の将棋漫画は10以上ある。これまでにない活況ぶりを「将棋漫画戦国時代」と言うのは将棋漫画研究家の棋見理と氏だ。「対局中の食事に注目した『将棋めし』や親目線の『ひらけ駒!』など、棋界に対する多様な見方が広がった結果」と分析。加えて読者の支持を集める理由を同氏は「将棋の内容が分からない人でも楽しめる、物語としての面白さが充実している」と指摘する。

昨年には瀬川の自伝「泣き虫しょったんの奇跡」が映画化された。来月3日からは塩田武士の小説「盤上のアルファ」を原作にしたドラマ(全4回)がNHKBSプレミアムで放映される。同作は33歳の元三段が再起をかけて編入試験に挑む物語だ。塩田は「編入試験は人生をかけた勝負であり、一発逆転という物語性が強い。コンプレックスや希望といった複数の感情を揺さぶるエンタメにとっては格好の題材だといえる」と話す。

(村上由樹)

[日本経済新聞夕刊2019年1月22日付]

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