フランス流、キッチンバサミ調理で楽ちん生活コラムニスト ももせいづみ

2019/1/22付

先日わが家にフランスからお客さんが来ていたのだが、調理を手伝ってもらうと、まな板をほとんど使わない。そういえば、海外でも何度もそんな風景に出合った。

皿の上で包丁を使って何でも切るし、空中で切りながら直接ボウルやフライパンに入れる(私はこれをエアーまな板と呼んでいる)。切りにくくないの?と聞くと、「まな板は管理が面倒」ときっぱり。

日本人は器用に包丁を使うから、エアーまな板で不ぞろいに切った野菜を見るのは居心地が悪い。でも、確かにまな板は肉や魚を切った面で野菜は切れず、調理中に何度も洗い、時には除菌もする。「管理が面倒」なのは確かかもしれない。

一時期、私もまねをしてエアーまな板を試してみたが、どうにも違和感が大きいので、キッチンバサミを使うようになった。最初はあまりうまくいかなかったが、世の中には実に多くの種類のキッチンバサミが売られていることを知ってから、事態は一変した。

皮が切れにくい鶏肉は、先端がとがったもののほうがよく切れる。豚バラ肉も、パックの上でハサミでチョキチョキすればまな板を出す必要もない。アジをおろしたり、干物を半分に切ったりしたいときも、すべてパックやビニール袋の中で済んでしまう。少しでもなま物をまな板で切ったら洗う必要があるので、その手間がないだけでも楽になったなあと思う。

キッチンバサミを使うようになって、もう一つ気づいたことがある。包丁とまな板はシンク付近で使う必要があるけれど、ハサミならどこでも使える。洗った野菜さえ渡せば、食卓で誰かがハサミでチョキチョキとサラダを作れる。カセットコンロの横で、鍋の具材の準備もできるし、子どもでも危なくない。フランスの友人も、よくそうして家族全員で食事の準備をしていたなあと思う。

キッチンバサミは、できれば分解して洗えるものが衛生的だ。持ち手部分までステンレス製の物を選べば食器洗い機でも洗える。選ぶときは握りの部分にしっかりと力が入り刃がサクサクと動くものを。先端がとがっているほうが肉類はよく切れるが、子ども用には先端の丸いセラミック製もある。

食事時も活躍する。あらかじめ食べやすい大きさに切って出すのではなく、食卓で盛り付けた皿の上でハサミで切れば、手間も減るし、まな板も汚れない。揚げ物やソースの絡んだものは、特に楽。料理愛好家の平野レミさんが作ったキッチンバサミは、皿の上で料理が切りやすいようにカーブがついていて、とても使いやすい。

台所から聞こえてくるトントンという音への郷愁もすてきだけれど、キッチンバサミは楽だし、みんなが使えて、調理がキッチンから食卓へと広がっていく。使いやすいものを選んで、ぜひ楽しく使ってみて。

ももせいづみ
東京都出身。暮らし、ライフスタイルを主なテーマとするコラムニスト。本コラムを含め、自著のイラストも自ら手がける。「新版『願いごと手帖』のつくり方」(主婦の友社)、「やれば得する!ビジネス発想家事」(六耀社)など著書多数。

[日本経済新聞夕刊2019年1月22日付]