睡眠リズムが狂う「社会的時差ボケ」 不調の原因に
夜型を見直し、寝る時間は一定に
生活上の事情で睡眠のリズムが狂う「社会的ジェットラグ(時差ボケ)」が問題になっている。睡眠時間の減少や体調不良につながり、仕事の効率低下や生活習慣病の原因にもなるとされる。思うように睡眠時間をとれないのは現代人の宿命だが、夜型生活や無理な朝活を見直すなど工夫の仕方はあると専門家は指摘する。
都内に住む40代の男性会社員Aさんの1週間の生活リズムは以下のようなものだ。
月~金は午前6時に起きて出勤する。帰宅後は夜遅くまで起きていることが多く床に就くのは大抵は午後11時すぎ。休日前の金土の夜は1時ごろまで夜更かしをしがちだ。土日の朝は「寝だめ」をして10時前後まで寝ている。
Aさんの場合、平日と休日とで就寝時間の中央の値で約3時間のズレが生じている。あたかも週末の夜に数時間時差のある地域に旅行して月曜朝に戻るときのジェットラグのような状況になる。
人には睡眠をはじめ生理状態の1日のリズムをつかさどる「生物時計」が備わっているが、これと社会生活上の時間のミスマッチが起きることや、それに伴う心身の不調のことを社会的ジェットラグと呼ぶ。
社会的ジェットラグが心身に及ぼす影響は通常の時差ボケの場合とよく似ているものの個人差も大きい。
午前中に能率が上がる人を「朝型人間」、夜に調子が上がる人を「夜型人間」と呼ぶが、これはその人の体内時計のタイプの違いによる。国立精神・神経医療研究センターなどの調査によると、日本の成人の10%が強い夜型、20%が夜型で、30%が朝型、40%が中間型という。
この中で社会的ジェットラグの影響を特に受けやすいのが夜型の人だ。遅くまで起きていることが多い半面、現実生活では出勤や登校、家事などのため早朝に起きる必要があるため、朝型や中間型に比べて睡眠が十分にとれず、いわゆる「睡眠負債」をため込みやすくなる。
その結果、Aさんのように休日に寝だめをすることになる。そして、平日の前半に起床困難、眠気、集中力の低下といった心身の不調を感じる。社会的ジェットラグの典型的なパターンだ。
睡眠を研究している明治薬科大学の駒田陽子准教授らは社会的ジェットラグの実態を調べるためウェブ調査を行った。
約3700人の回答者の社会的ジェットラグは、平均55分で1時間以上の人が40%だった。年齢が若いほど社会的ジェットラグは大きく、20代では61%、30代では53%が1時間以上だった。
よい眠りや目覚めのためには体内リズムを整えるのが重要となる。その第一歩として駒田さんは「リズムが乱れがちな週末も、寝る時間と起きる時間を一定にすること」とアドバイスする。
眠っているときと起きているときのメリハリを付けるのも大切だ。朝起きたらできるだけ朝日を浴びる。日光のような強い光は体内時計をリセットする効果がある。
また「昼2時すぎに眠くなるのは正常な体内リズム。昼食後に10~20分仮眠するのはリズムを整えるのによい」(駒田さん)という。就寝直前にスマートフォンなどを見ると、寝付きが悪くなるので注意したい。
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慢性的に心身に影響
社会的ジェットラグは、海外渡航やシフトワークの場合と比べて時間のズレの度合いは小さいものの、慢性的に心身の健康に影響することが、海外での研究で明らかになっている。
男女16人(平均年齢25.7歳)に週末に「寝だめ」をした場合と、いつも通りに寝た場合を比較した調査では、週末朝寝坊をした人の方が、眠気の程度や疲労度が月曜・火曜に強く、パフォーマンスの低下は週前半まで続いた。
生活習慣病や精神状態への影響も指摘されている。ニュージーランドでの約1000人を対象にした2015年の調査では、肥満やメタボリックシンドロームの数値が社会的ジェットラグが大きい人ほど有意に高かった。またブラジルでの4000人を対象にした調査では、社会的ジェットラグが2時間を超えると、抑うつ症状が有意に強くなることが判明した。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2019年1月16日付]
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