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映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』

2019/1/4付 日本経済新聞 夕刊

高畑充希が、その世界にはいっていくところからはじまる。観客の視線を導く役だ。その世界とは、鹿野靖明(大泉洋)を中心にした世界。

東京・有楽町の丸の内ピカデリーほかで公開中(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

筋ジストロフィーが進行し、首から上と手さきだけしか自由にならない鹿野は電動車椅子をあやつり、自室で数人の介助ボランティアを指揮している。そう、何かしてほしいことをたのむというより、命令をあたえたり指導しているようでエラそうなのだ。戯画的な暴君のようでさえある。

なんてところにきてしまったんでしょ、という高畑扮(ふん)する安堂美咲のおどろきととまどいは、観客のものでもある。

ボランティアをしている恋人(三浦春馬)をたずねてきた美咲は、泊りのシフトにつきあわされ、鹿野が食べたいと言うので、夜中にバナナを求めてまちを駆けずりまわるハメになる。

そんな出会いだが、しだいに鹿野のおかれている極限的な状況と、それと独自なたたかいかたをしている彼のキャラクターを理解しひかれてさえいく。美咲も観客も。

やがて美咲は、見られる存在になる。観客から、鹿野から。高畑充希は活動的な魅力にあふれる女優だがときに過活動で空転することもある。ここでは、設定のせいか演出のせいか、抑制がきいてエロチックだ。

彼女と鹿野の、ほのかな交情は、メイン・テーマではないが、エンターテインメントとしてのこの映画の大きな柱になっている。

「もうすこしでベッド・イン」という状況になったり、鹿野から「筋ジスだけど、あそこは海綿体だから大丈夫!」という虚をつく下ネタもとび出す。

そんな恋も笑いもあるなかで、鹿野の壮絶な生きかたがえがかれ、忘れがたい感銘をおぼえる。監督は「ブタがいた教室」(2008年)の前田哲。渡辺一史のノンフィクションが原作。2時間。

★★★★

(映画評論家 宇田川幸洋)

[日本経済新聞夕刊2019年1月4日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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