今やデザート、焼き芋ブーム コンビニや専門店広がる
木枯らしの中、熱々をほおばる焼き芋は最高だ。最近はスーパーやコンビニでも見かける。どうもブームのようで、専門店やスイーツも次々と登場。焼き芋の歴史をたどってみよう。
「焼きたてです!」。12月中旬、東京都品川区のイトーヨーカドー大井町店内の屋台風の店には、専用オーブンで焼いたばかりの芋がズラリ。香ばしい匂いに誘われたのか、すぐに女性客がのぞき込んだ。吟味して1本を選んだ主婦(68)は「週1回は必ず買う。売り切れが多いのでラッキーでした」と顔をほころばせた。数人の客が集まり次々に買っていく。
イトーヨーカ堂青果部の乾賢志さん(41)によると「近年の焼き芋はねっとりとした食感で甘く、デザート感覚で食べる人が増えている」という。
実際に記者(35)も食べてみた。1本200円とお手ごろだが、ずっしりと重い。きつね色の果肉は溶けるような食感で、すぐに口いっぱいに甘みが広がった。記者が子供の頃食べたのは、ホクホクとした食感だった。確かにトレンドは変わったようだ。
焼き芋の歴史は江戸時代にまでさかのぼる。農業関係者や大学教授らでつくる「一般財団法人いも類振興会」理事長の鈴木昭二さんによると、中南米産のかんしょ(サツマイモ)が1605年に琉球に伝来。「当初は飢饉(ききん)や戦時の食糧難に備える救荒作物だった」。当時、砂糖は貴重品。安くて甘い焼き芋は老若男女に大受けし、大ブームに。
次にブームが訪れたのは明治維新後とされる。東京の人口が増加し、需要が増大。冬に焼き芋専門店が現れたのもこの時期とされる。こういった店は夏場はかき氷を売っていたのだそうだ。
1951年には東京に初めて引き売り屋台が登場。同墨田区の三野輪万蔵さんが、箱に小石を入れて芋を焼く道具をリヤカーに積み売り歩くスタイルを考案し、日本中に広がった。その後、リヤカーは軽トラックに姿を変えた。記者も木枯らしの中「いしや~きいも~やきいも~」という特徴的な歌を流すトラックを追いかけたのを覚えている。
歌の起源は定かではないようだ。焼き芋屋独立支援サービス「やきいも工房」(京都市)を運営する斎藤志郎さんらによると「誰かが始めた掛け声をまねして広がったのだろう」ということだった。
焼き芋は食物繊維やビタミンが多く含まれる。現代の第4次焼き芋ブームを支えるのは、健康意識の高まりと遠赤外線を利用した「焼き芋オーブン」だ。オーブンの登場で販売スタイルも移動型から店舗型に移行した。
オーブンを開発したのは産業機器設計業の群商(宇都宮市)だ。社長の園田豊太郎さんによると、温度や焼き加減を設定でき「スイッチ一つで誰でもおいしく作れる」。全国の大手スーパー約4千店に販売している。
東京・銀座や百貨店にも焼き芋専門店が登場。6月には銀座7丁目に「銀座つぼやきいも」が出店し、大丸梅田店(大阪市)は10月に専門店を開いた。「ダイエット目的の女性に特に大人気」と話す。
焼き芋をアレンジしたスイーツも人気だ。販売サイト「蔵出・焼き芋かいつか」を運営する、ポテトかいつか(茨城県かすみがうら市)では「焼き芋ロールケーキやパイが1日200個売れることもある」(直販事業部長の細貝英史さん)。
ねっとりした温かい焼き芋にアイスクリームを添え合わせた食べ方も好まれるという。さらに、急速冷凍し半解凍状態で販売する「アイス焼き芋」も出始めた。まだ流通量は少ないがジェラートのような食感でアイスとも合う。大手スーパーの担当者は「製品化を急ぎ、焼き芋を夏のおやつとしても定着させたい」と意気込む。
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ホクホク・ねっとり 自宅でも
スーパーで購入できるが、寒いと外出もおっくう。冷蔵庫の芋を使い、電子レンジでお手軽に焼き芋の味を再現できるか試してみた。
インターネットの料理サイトには2千以上のレシピがあるが、最も簡単に作れるレシピをセレクト。サツマイモをよく洗い、20分ほど水につけて細かい汚れを落とす。
次にサツマイモをラップに包み、500ワットで3分加熱した後、中まで熱が入るよう裏返して700ワットでまた3分。昔ながらのほどよい甘みとホクホクとした食感を楽しめた。現代風のねっとり感を出すには、水にぬらしたキッチンペーパーを芋に巻いて加熱すると有効らしい。焼き芋の食べ比べもしてみたい。
(宇都宮想)
[NIKKEIプラス1 2018年1月5日付]
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