広島食材推す都内のイタリアン 豪雨被害の生産者応援
今年も振り返れば地震、大型台風、豪雨と災害が多かった。被災された方々に一日も早い平穏な日々が戻ることを祈って止まない。
筆者は今年、宮城県産品の販路拡大をお手伝いする傍ら、中国・四国地方で豪雨被害にあった生産者を訪ねた。復旧にまだ時間がかかる生産者や加工業者もあるが、多くは回復し、被災前の状態に戻っている生産者も多い。しかし、客離れに悩まされている。
こうした生産者に手を差し伸べているのが、都内で「メリプリンチペッサ」などのイタリアンを5店舗運営するビッグスマイル(東京・渋谷)だ。オーナーシェフの江口慶社長は広島県江田島の出身で、広島の食材を全面的にメニューに取り入れている。
メインの業態は、500円で本格的な釜焼きピザを提供するメリプリンチペッサ。ピザの良しあしは、生地と焼き方で決まると筆者は感じている。同店では、価格を抑えて、本場の味を再現するためにピザ生地の配合を工夫し、味を落とさずに低コストを実現した。
東京・銀座にある広島県のアンテナショップ「TAU(タウ)」の3階にも出店しており、ランチ、ディナーともに盛況。店舗の広さは132平方メートルで月商1千万円。11月には「メリプリンチペッサ西荻窪店」をオープンさせて、こちらもリピーターが増え、集客は順調だ。
江口社長は郷土愛が強く、広島県の食材を一件でも多く利用しようと努力しており、常に20~30件の生産者と取引している。そのなかでも最も被害が大きかったのが、広島市安佐北区にある田辺農園だった。
この農園はサラダに欠かせない葉物野菜を生産している。代表の田辺圭一郎氏は、時間をかけて土作りをして、香りが強く、味の濃い葉物野菜の生産に成功した。筆者も現地に行ったがリーフレタス、ルッコラなど葉が軟らかいのに、品種ごとの味の違いが明確で、その品質の高さに驚いた。通年出荷するのでレストランにとって頼れる農園だ。
同農園は20ものビニールハウスを持つが、そのうちの7つが三篠川流域にあり、川の氾濫で作物は全滅した。しかしハウスは流されなかったので、9月ごろには徐々に出荷が可能になり、現在は被災前の生産量に戻っている。
江口社長は被災直後から、田辺農園に電話を入れ、出荷を催促した。「催促はいわばエールです。被災しても、当てにしていると伝える事で、気持ちは上向くと思います」と江口社長。田辺代表も「江口社長からの電話が復旧の支えになった」と話す。
田辺農園の出荷が復活すると、江口社長は9月末に系列店全体で「田辺農園フェア」を開いた。野菜がおいしいことを伝えつつ、広島で豪雨被害にあったことを伝えた。フェアをきっかけに野菜がおいしいと店のファンも増えた。産地に寄り添うことが、収益につながった好例だ。
少子高齢化による慢性的な人手不足、宅配便などの輸送費の上昇と、地方の一次生産は問題が山積みだ。さらに天災が重なれば、食の根幹の維持は難しい。19年こそは大きな災害が発生しないよう願いつつ、産地に思いをはせたい。
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2018年12月28日付]
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