コンタクト、老眼にもフィット 広がる遠近両用品
中高年になると老眼で近くが見えづらくなり、老眼鏡などの「メガネが手放せない」という人が増える。さらに年齢を重ねると白内障も進行し、手術後にメガネが必要になる。ただ、近視用コンタクトレンズを使い慣れた人はメガネに抵抗を感じることが多い。こうしたなかで遠近両用コンタクトの製品が増え、白内障の治療法の選択肢が広がるなど、メガネに頼らない生活を後押しする動きが目立っている。
東京都西東京市に住む女性(58)は50歳手前から使っていた老眼鏡に慣れず、肩こりに悩んでいた。約2年前に遠近両用コンタクトに変えたところ症状が改善し、現在は編み物やゴルフを楽しんでいる。
老眼は見たい距離にピントを合わせる目の水晶体の調節力が衰えて小さい文字がぼやけて見えなくなったり、手元がかすんだりする老化現象。40歳代から自覚症状が出ることが多い。ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J、東京・千代田)が2014年に実施した調査で、45歳から49歳までの男女の81%が「手元が見えにくい」など老眼の症状を感じていた。
手元から遠くまでが見える遠近両用メガネは、見たい距離に応じて視線を上下にずらす必要があるため、慣れるまで煩わしく感じる人は多い。
メガネを使いたくないという人に向くのが遠近両用のコンタクトだ。これまで近視用を使ってきた人が老眼と診断された場合、眼科医に相談すれば処方してもらえる。最近は多様な機能を持つ製品が登場している。
J&Jは1日使い捨てタイプの遠近両用コンタクト「ワンデーアキュビューモイスト マルチフォーカル」(ソフト)を販売する。近くを見る部分と、その周りの遠くを見る部分を遠近両用メガネのように明確に区切っていない。度数をグラデーションのようになだらかに変えた光学設計で、遠近の見え方のバランスを自然にしたという。
同社学術部のスミス朱美・医学博士は「視線をずらす必要もなく、自然な見え方が得られる」と話す。瞳孔の大きさや度数に応じ、171種類から自分に合ったレンズを選べる。
コンタクト大手のメニコンは、老眼と乱視を矯正できる「2WEEKメニコン プレミオ 遠近両用トーリック」(ソフト)を12月上旬に発売した。同社の推計ではコンタクト利用者のうち40代以上が約45%を占める。ただ遠近両用タイプの使用は約8%にすぎない。乱視も矯正する機能を製品に持たせて、シニア層の継続利用を促す。
60歳代以降になると、白内障が老眼に覆いかぶさるように進行する。視界がぼやける、かすむといった症状がひどくなる。
こうなると濁った水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを入れる手術が必要になる。ピントを遠くまたは近くのどちらかに合わせる単焦点の眼内レンズが現在の主流のため、遠近ともにはっきり見るためには、手術後にメガネをかけなければいけない。
遠近両用コンタクトのように多焦点の眼内レンズを入れれば、遠くも近くも見えるようになり、メガネがいらない。ただ公的な健康保険の対象外(先進医療適用)で高額なのが難点だ。
「モノビジョン」と呼ぶ治療法には公的保険が適用されている。左右で見え方が違う単焦点の眼内レンズを入れる手法で、効き目に遠くにピントが合うレンズ、もう片方の目には近くにピントが合うレンズを入れる。両目で見ると自然な見え方になるとされる。
北里大学病院(相模原市)で手術を受けた市内在住の女性(65)は「白内障の手術を受けてメガネをかけるのが嫌だった。遠くも近くも見えて不便なく生活が送れる」と満足する。同病院では、白内障の手術をする年間約3500人の患者の2割弱がモノビジョンを選ぶという。
北里大医学部の庄司信行主任教授は「度数の差をどう調整するかがカギ」と話す。手術のほか、事前検査のために十分なスタッフや設備が必要で、手術ができる病院は限られる。
庄司主任教授は「白内障患者には単焦点レンズの手術を説明し、勧めている。どうしてもメガネを使わずに遠くも近くもみたいという患者には、モノビジョンを選択肢の一つとして紹介している」と話す。
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眼科医と相談 慎重に選んで
「白内障治療の眼内レンズは種類によって見え方に違いがあります」。今月15日、井上眼科病院(東京・千代田)で白内障の手術を考える人を対象としたセミナーが開かれた。約50人の参加者に、眼科医がレンズの基礎知識、診察・手術の流れなどの注意点をわかりやすく説明した。
手術を考える人は、こうした情報をしっかり提供する医療機関を選んで知識を得るのが、判断する上で手掛かりになる。
白内障手術は年間150万件が行われていると推計されるが、このうち多焦点の眼内レンズは2%程度とみられる。ほとんどの手術が単焦点眼内レンズだ。
多焦点の眼内レンズは夜間に照明の周りに光の輪ができたり、にじんでまぶしく見えたりすることがある。単焦点レンズを使う「モノビジョン」は立体的に見えにくいことがある。
日本眼科医会の井上賢治常任理事は「日常生活で、どんな見え方を優先するのか眼科医とじっくり相談し、理解・納得した上で慎重なレンズの選択が必要だ」と強調する。
(近藤英次)
[日本経済新聞朝刊2018年12月24日付]
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