映画『アリー/スター誕生』 素敵な女優と監督も誕生
大スターが若い娘の才能に一目惚(ぼ)れ。チャンスを与えたこの娘がスターの座へと駆け上るのとは逆に、自身は酒に溺れて破滅する。
これが1937年にジャネット・ゲイナー主演で誕生した第1作の物語。以後、54年製はジュディ・ガーランド、76年製はバーブラ・ストライサンド、そして4作目の今回はレディ・ガガ、と時代を代表する歌い手をヒロイン役にして繰り返し映画化してきたのは、このせつない愛の物語が誰の心にも届くことの証だろう。
そんな、よく知られた題材を『アメリカン・スナイパー』(2014年)などの人気俳優ブラッドリー・クーパーが初監督、ロック音楽界の大御所ジャクソン・メイン役も演じてプロ顔負けの歌唱力を発揮した。
開巻の超満員の野外コンサートのステージ裏から出て歌う姿からして本物! と驚く。それだけでなく、歌手としての成功を夢見るウエイトレスのアリー(レディ・ガガ)が彼に才能を見いだされ、互いに恋に落ちて成功の階段を駆け上る過程で見せる愛らしさや素直な人間味に、演出の力の大きさを感じさせられる。
ガガ自身が日頃(ひごろ)から抱くLGBTの人々への共感やメインと兄の確執などがドラマに陰影を与えている。
使われる楽曲は映画用のオリジナル。ジュディ・ガーランドへの愛着を彼女の大ヒット曲"オーヴァー・ザ・レインボウ"のさりげない引用で語っているのも心憎い。そのガーランドはラストのステージで「私はミセス・ノーマン・メインです」と名乗ったが、ガガは「アリー・メインです」と時代の違いを感じさせながら、そこには夫メインに対する愛情が溢(あふ)れている。
ここで世界の大スター、レディ・ガガの存在感が際立ち、彼女なくしてこの映画は生まれなかったことを物語る。素敵(すてき)な女優と腕利きの監督が誕生した記念すべき映画になった。2時間16分
★★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2018年12月21日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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