強いとろみと深みあるうま味 函館のガゴメ昆布
和食の出汁(だし)に欠かせない昆布。主産地は北海道函館市だ。出汁に向くのは真昆布だが、最近はガゴメ昆布という種類に注目が集まっている。地元ではガゴメを使った料理や菓子の人気が高まっている。
ガゴメの特徴はその強いとろみだ。正体はフコイダンという成分で、免疫力を高めるとされている。健康意識の高まりを背景にガゴメは積極的に採取されるようになり、ガゴメを使った料理の幅が広がっている。
観光スポットの五稜郭に近い函館リッチホテル五稜郭の1階にある「がごめ家」ではランチタイムに「はこだてがごめ飯」を提供している。
細かく刻んだガゴメ昆布を三杯酢に漬けて粘りを出し、ごはんに混ぜた。ガゴメで締めたイカや、地元のタラコ、カニのほぐし身をトッピングしてある。口にほお張るととろみ感と甘酢っぱさが印象的だ。半分ほど残して、かつお出汁をかけて茶漬けに。箸が止まらず平らげた。
開発したのは同店を運営するガッツ(函館市)社長の岸部悟司さん(54)だ。「昆布は主役になりにくい食材。でもガゴメの存在感をアピールしたい」と試行錯誤の末たどり着いた。地元客、観光客を問わず女性に人気のメニューだ。
函館国際ホテルはガゴメ昆布を使った料理を提供している。記者一押しは地元産のマダラとシイタケを合わせた「塩煮込み」。だしの深みのあるうま味を塩気が絶妙に引き立てる。とろみはガゴメが生み出す。尖ったところがなくホッとする味で、おかわりしたくなった。
「ガゴメ昆布は函館の新名物になる。将来の観光の目玉にしたい」と同ホテル総料理長の木村史能さん(55)は力説する。ガゴメを使った料理はまだなじみが薄い。お客は「炊き込みご飯」を試すという。木村さんはメニューをさらに増やす。ガゴメ料理を函館の名物にするのが夢だ。
ガゴメを和菓子に使った店があると聞いて、函館からやや離れた木古内町を訪れた。お目当ては老舗和菓子店の末広庵の「とろろ昆布餅」だ。牛皮餅で包んだうぐいす豆鹿の子に、とろろ昆布をまとわせた。パクリと一口。うぐいす豆鹿の子の青臭さと甘み、昆布のうま味は相性がいい。ガゴメ特有の強めのぬめり感は忘れがたい。
同店店主の竹田光伸さん(51)は「お土産としてもらった年配の人が時々買いに来る。一度に10個単位で売れるので、品切れしないよう気を配っている」と打ち明ける。同店で25年前から販売しているロングセラー商品だ。
函館市によると、市内の2017年度のガゴメ昆布の収穫量は93.4トンで、10年前と比べて半分以下に落ち込んだ。気候変動や昆布の採りすぎの影響が指摘されている。需要が拡大するなか、安定供給が課題だ。
北海道大学は同大が開発した「北大ガゴメ」の養殖に取り組む。フコイダンが天然物の2倍含まれていて、収穫までの期間も天然物より短い。北大大学院水産科学研究院の安井肇教授は「ガゴメは函館の財産。北大ガゴメを増産して地元の漁業経営の安定につなげたい」と意気込んでいる。
(函館支局長 井上達也)
[日本経済新聞夕刊2018年12月20日付]
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