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世界のナベアツや山崎邦正…「転身組」が落語界に新風

2018/12/17付 日本経済新聞 夕刊

かつて世界のナベアツとして一世を風靡した桂三度は高座で活躍中だ(大阪市の天満天神繁昌亭)

東西の落語界で、お笑いタレントからの「転身組」が活躍の場を広げている。ライブやテレビで長年培った経験の上に、一からの落語修業で実力を蓄えた若手が目立つ存在になってきた。

大阪市の落語定席、天満天神繁昌亭で11月19日から5日にわたって開かれた桂三度(さんど)の公演は連日満員の大盛況だった。6月に上方落語若手噺家(はなしか)グランプリで優勝、10月にはNHK新人落語大賞の大賞を獲得。いま波に乗るこの落語家はもともと、「3の倍数と3がつく時だけアホになる」というネタで一世を風靡したお笑いタレント、世界のナベアツだ。

■師匠のカバン持ちなど下積みを経験

両賞の受賞記念となったこの公演には師匠の桂文枝や上方落語協会会長の笑福亭仁智らも日替わりで出演した。三度は両コンテストでも好評を得た新作「心と心」のほか古典作品も披露。小道具の小拍子を効果的に鳴らして人物のめまぐるしい入れ替わりをテンポ良く表現。タレント時代のネタも取り入れて客席を沸かせた。

三度は1991年に漫才コンビ、ジャリズムを結成してお笑いの活動を始めた。その後、放送作家やピン芸タレントとしても活躍。テレビのバラエティー番組でもおなじみの顔となっていた。そのさなかの2011年、「長年の夢だった」という落語家の道に進むため、41歳で文枝(当時三枝)に入門、タレントとしての人気を捨てて落語の見習い修業をスタート。師匠のカバン持ちなどの下積みを経験した。

師匠の文枝と同じく創作落語を得意とし、タレントや放送作家としての経験を生かした斬新な発想で独自の世界を作り上げる。入門から8年目。文枝は「自分らしいものを作って上方落語界に風穴を開けてほしいと伝えてきた。それが形になり始めている。持ち前の発想に、質量ともにものすごい稽古が合わさって力をつけている」とみる。

三度自身は「まだ基本ができていない」と言いつつ、「コントや漫才ではできない落語ならではの笑いがつくれるようになってきた」と話す。受賞記念の会では「自由度が上がって、演目選びでも冒険ができた」。落語家として最初の目標だったNHK新人落語大賞を手にし、次は「古典を精力的にやって、自分の型を作ること」と意欲的だ。

上方ではほかに山崎邦正が08年、月亭八方に入門。現在、月亭方正として人気を集める。テレビでのキャラクターとは裏腹に人情噺も得意とし、知名度を生かして東京での落語会にも多く出演する。落語家生活10周年を迎えた今年5月には、大阪市のなんばグランド花月で独演会を開催。19年3月にはNHK大阪ホールでの独演会も控え、落語家として次々、大劇場公演に挑む。

20回記念の「転身組落語会」で新作を披露する三遊亭とむ(東京・港)

東京の落語界でも、お笑いからの転身組が頭角を現す。いま二ツ目の三遊亭とむは末高斗夢としてダジャレを連発するステージでテレビのネタ番組に出演していた。話芸を磨くために落語の稽古をしたのをきっかけに春風亭小朝から「きちんと前座修業をすれば認めてもらえる」と勧められ、11年に三遊亭好楽に入門。「タレント出身というだけで風当たりも強く、最初はつらかった。しかし、ここでくじけたらお笑いの先輩にも申し訳が立たないと思い修業を続けてきた」と話す。

■落語初心者を呼び込む

とむに続く転身組に、お笑いコンビ「若月」を解散して15年に三遊亭鳳楽(ほうらく)に入門した三遊亭鳳月(ほうづき)、漫才コンビ「ヒカリゴケ」を解散して同年、笑福亭鶴光に入門した笑福亭茶光(さこう)がいる。3人は16年秋から「転身組落語会」を数十人規模の会場で開催する。20回目となった今年10月には750人が入るホールで記念の会を成功させた。

いずれもお笑いタレントとして10年以上のキャリアを持ち、「落語という形式に自由な発想を乗っけることが売り」(とむ)だ。上方落語に詳しい演芸ジャーナリストのやまだりよこ氏は「豊富な経験で培った知名度と華、観客を引き込む話術に優れ、落語初心者を呼び込んでいる。他の落語家にも刺激を与えている」と指摘。飛躍のためには「口調や所作、表情などで人の体温や情まで伝える古典落語の技術を、急がずにしっかり身につけてほしい」と期待を寄せていた。

(佐藤洋輔、小山雄嗣)

[日本経済新聞夕刊2018年12月17日付]

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