映画『メアリーの総て』 波乱の中に生への情熱
ゴシック・ロマンス(英国怪奇小説)の代表作として有名な『フランケンシュタイン』を書きはじめたとき、作者のメアリー・シェリーはまだ18歳の少女だった。その波乱万丈の青春をたどる伝記映画だ。
メアリーの父はアナキズムの思想家ゴドウィンで、母は女性解放論者のウルストンクラフト。母はメアリーの出産のせいで亡くなってしまう。そのメアリーには、両親から継いだ激しい反逆の血が流れていた。
メアリー(エル・ファニング)は15歳で、ロマン派の天才詩人シェリーと恋に落ち、まもなく駆け落ちする。だが、21歳のシェリーには妻子がおり、生活は安定しない。おりからメアリーは女児を出産するが、借金取りから逃げるときに赤ん坊を冷たい雨に打たせて、死亡させてしまう。
その悲しみを紛らわすように、義妹のクレアがメアリーとシェリーをスイス旅行に誘う。クレアを愛人にする大詩人のバイロン卿がスイスの別荘を自由に使わせてくれるのだという。
別荘での暮らしが始まり、バイロン卿が、みんなそれぞれ怪奇談を書いて優劣を競おうと提案する。かくして、メアリーは『フランケンシュタイン』を書きはじめることになる……。
19世紀を生きた若い女性の伝記として出色の出来栄えである。主演のエル・ファニングが見事なはまり役で、つねに白い顔をバラ色に紅潮させ、メアリーの情熱を美しく官能的に体現してみせる。
随所に挟まれる英国の風景や天候のショットも素晴らしい。ロマン主義の輝きを育む、暗鬱な、しかし底知れぬ風土を描きだす。
それに成功したのが、サウジアラビア初の女性監督というのも面白い。彼女の女性解放にむける情熱が、メアリーの生への情熱と共鳴しあって、この豊かな成果を生んだのだろう。ハイファ・アル=マンスール監督。2時間1分。
★★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2018年12月14日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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