日本人音楽家が続々集結 なぜ英国が選ばれるのか

2018/12/11付
英国でのリサイタルに臨む平井元喜(9月)
英国でのリサイタルに臨む平井元喜(9月)

作曲、演奏、研究などの分野でマルチに活躍する英国在住の若手・中堅日本人音楽家が増えている。多様な価値観が混在し、世界各地に飛び回れる環境が「国際人」の活動を後押しする。

英国、東京、フィリピン、京都、アフリカのマダガスカルやモーリシャス――。英国在住のピアニスト・作曲家、平井元喜(45)は9月下旬~12月上旬、世界各地でコンサートを開いた。これまでに演奏で訪れた国はアフリカや中東など60カ国以上。「世界の人々に音楽を届けるのがライフワーク」と語る。

世界中を飛び回りやすい

平井はピアニストとして伝統的なクラシック音楽を演奏する一方、作曲家として各地の民族音楽をモチーフにした自作曲の創作にも力を入れる。公演で訪れた国の民族音楽や神話、伝承を調べては自作曲に取り入れる。これまでに150曲ほどの曲を手掛けた。「民族音楽にこそ人々の特色が出る。楽譜に縛られず、原点としての音を追求する」

祖父が作曲家の平井康三郎、父がチェロ奏者の丈一朗という音楽一家に生まれた。1996年に慶応大文学部哲学科を卒業後、英国王立音楽院に入学。20年以上英国で暮らす。英国にはインド、アフリカ、中東などからの移民が多い半面、伝統的に英国に住み続ける人も少なくない。「様々な価値観の中で暮らすと、自然と音楽も多様化される」。北米や中南米、アフリカなどへのアクセスもよく、世界を飛び回りやすい環境が整い、「コスモポリタン(国際人)の意識が強くなる場所だ」(平井)という。

バイオリニストの小町碧(30)は親の仕事の関係で幼少時からスイスなど海外を回り、中学時代から英国に住む。英王立音楽院大学院では英国の音楽に関心を持ち、英国の作曲家の研究で修士号を取得。「取り上げた作曲家の研究は英国でも深掘りされておらず、それなら私がと考えた」

ディーリアスをテーマにした公演で演奏する小町碧(昨年11月、東京・銀座の王子ホール)=平井洋撮影

昨年、英作曲家フレデリック・ディーリアス(1862~1934年)の晩年を弟子が描いた「ソング・オブ・サマー」(アルテスパブリッシング)を邦訳した。同年11月には王子ホールでディーリアスをテーマにした公演を開催。「日本で英国の作曲家と言えばエルガーとホルストで音楽のイメージは穏やかな田園。そんな固定したイメージだけでは語れない魅力がある」

現在の関心はヴォーン・ウィリアムズで、彼の自伝の翻訳も計画中だ。「研究があってこそ演奏水準も高まる」と両立に意欲的だ。

クラシックの本場はドイツ、オーストリア、イタリアで、英国は亜流とみられがちだ。しかし、首都ロンドンはロックやジャズなどの多くの音楽家が訪れる世界屈指の音楽都市、国際都市で、「自国の音楽家や特定ジャンルにこだわらない音楽ファンが多い」(小町)。

いい音楽はあたたく受け入れられる

ロンドン在住の作曲家、藤倉大(41)も「国際人」の視野を持つ音楽家といえる。藤倉は15歳で渡英し、作曲を学んだ。オペラ、管弦楽曲、ピアノ曲などを幅広く作曲し、特に欧州で高く評価される。10月31日に東京芸術劇場(東京・豊島)で日本初演を果たした藤倉のオペラ「ソラリス」も2015年の初演がパリのシャンゼリゼ劇場だった。

藤倉はプロデューサーとしての顔も併せ持ち、日本で「ボンクリ・フェス」という自主企画の音楽祭を昨年始めた。今年は9月下旬に東京芸術劇場で開催。出演者は交流サイト(SNS)で自ら世界中から音楽家を集めた。「声を掛けたらすぐに集まった」と涼しげだ。

英BBCウェールズ交響楽団(現BBCウェールズ・ナショナル管弦楽団)の首席指揮者を務めるなど、英国音楽に詳しい指揮者の尾高忠明は「日本人の私がエルガーを指揮しても、いい音楽であればあたたかく受け入れるのが英国」と話す。国際国家らしい進取の精神と鋭い感覚が、在英の日本人音楽家にも息づく。

(岩崎貴行)

[日本経済新聞夕刊2018年12月11日付]

エンタメ!連載記事一覧