パリで味わうジビエ「王家の野ウサギ」 伝統の技凝縮
ジビエ料理の最高峰、フランス料理の特徴が凝縮されたといわれる一品がある。その名は「リエーブル・アラロワイヤル(王家の野ウサギ)」。野ウサギ1匹の中に豚肉、フォアグラなどを詰めた料理だ。準備に約10日かかるなど手がかかり、一時は「忘れられた料理」ともいわれた。近年伝統料理の見直しで、再び関心が高まっている。
18世紀に考案されたとされる料理で、野ウサギを捕る秋から冬にしか提供されない。シェフごとに異なるが、まず野ウサギを約1週間つるして肉を緩ませる。次に皮をはいで骨を取り除き、ハーブなどで漬け込む。
並行してフォアグラ、トリュフ、野ウサギの内臓などで詰め物(ファルス)を作り、先ほどの野ウサギに詰める。円柱状に形を整え、数日かけて火を入れる。これをスライスして提供する。
「現代的に分かりやすく、食べやすくしている」。ミシュランガイドで2つ星を持つパリ北西部のフレンチ、Le Tailleventのシェフ、ダビッド・ビゼ氏(40)は語る。2016年、リエーブル・アラロワイヤル料理の世界大会で優勝した実力派シェフだ。
黒いソースが全体を覆い、顔を近づけると肉やハーブが混ざった濃厚でどっしりとした香りが印象的だ。フォークはすっと柔らかく入り、野ウサギの肉と詰め物が複雑で統一感を持った味を作り出す。口当たりは軽いが、おなかにはしっかり残る料理だ。
出せるレストランは限られるが、日本人も活躍する。パリ中部の1つ星フレンチ、Allianceのシェフ、大宮敏孝氏(39)は「伝統を尊重しつつも、外国人として外国人の解釈も加えている」と語る。
今年から、最初の段階で足やヒレなどを取り除いて作る改良を加えた。スライスして提供するときに、足とヒレの部分では味に差が出がちだ。全員に同じ味を提供したいという細やかな配慮だ。
とはいえ味は伝統そのままの力強さだ。濃厚なソース、肉の味を、フォアグラのなめらかさでバランスを取る。
現代のリエーブル・アラロワイヤルは伝統的なものより肉の臭さや脂っこさを減らす傾向にある。パリ東部のフレンチ、AU BASCOUでもクセを控えめにして、裾野を広げることを目指している。
漬け込んだ時のワインやハーブから感じる伝統的な香りはそのままに、しつこくない味付けだ。シェフのルノー・マルシーユ氏(37)は「胃にもたれず、誰でも食べやすくしたかった」と語る。確かに食べた後も、重たく感じることはなかった。半分サイズの注文もでき、気楽に試せる。
リエーブル・アラロワイヤルを最初に食べたのはフランスのルイ14世(1638~1715)だったとされる。ジビエ料理が好きだったが、高齢で歯が抜けてしまった。そこで料理人にそれでも楽しめるジビエ料理を作らせたという。硬くなりがちな野ウサギの肉を手間ひまかけて柔らかくする現在の調理法は、こうして誕生した。
その後もこの料理はブルジョワ階級の料理として認識されてきた。今日ではその幅は広がったものの、やはりだれもが好きというよりは一定のファンが頼む一品だ。
(パリ支局長 白石透冴)
[日本経済新聞夕刊2018年12月6日付]
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