渡辺さんのきめ細かな接客の原点は新人時代にかけられた上司の言葉だ。4年半前に正社員になり今では副支店長を務めるが、アルバイトを始めた専門学校1年生の時は接客が好きになれなかったという。
特に苦手なのが最初の声がけ。「ご試着できますので」「ぜひお鏡で合わせてみてください」とありがちな言葉をかけていた。それを見ていた上司からは「試着室がない店も、鏡がない店もない」と厳しい指摘を受けた。それ以来、この2つの言葉を一切使わないと心に決めた。
試行錯誤の積み重ねで生み出されたのが観察力。顧客の視線や入店する時のスピードなど目を光らせるようになった。下に視線を落として入ってくる人は靴を探している可能性が高い。そんな時には「靴を探していますか」と聞くと、すんなりと会話が始まる。
最近はインターネットで商品を決めて来店する人も多い。店内でスマートフォン(スマホ)の画面を見ながら店内を見回している人には、「何か事前にご覧いただいている商品はありますか」と声をかける。この観察力が土台となり会話の糸口が見つかる。
渡辺さんは2017年から2年連続、3万5千人の販売員がいるルミネのロールプレイング大会で170人のブロンズ賞に輝いた。
「お客様との会話を楽しみ、スキルを磨いていきたい」。顧客の人生に沿い続ける挑戦は続く。
(勝野杏美)
[日経MJ2018年12月3日付]