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すり身フワフワ、うまみ凝縮 宮崎・日南のカニ巻き汁

2018/11/29付 日本経済新聞 夕刊

もみじの里とむらのカニ巻き汁は川魚のような臭みを消す工夫をしている

宮崎県日南市の北郷町を流れる広渡川や酒谷川に生息するモクズガニ。地元では「山太郎(やまたろう)ガニ」と呼び親しんでいる。産卵のため秋口に上流から河口に下っていくカニを捕まえ、丸ごとすり潰して味噌仕立ての汁物にしたのが「カニ巻き汁」だ。カニのうまみが凝縮され、秋から冬にかけて人気の郷土料理だ。

山太郎ガニの甲羅を外す

北郷町の食堂、あげいんの広瀬タエ子さん(71)は夫がその日に捕ってきたカニを料理してくれる。甲羅を外し、きれいに洗う。カニと水をミキサーにかけ、しばらくして味噌を加え、さらにミキサーをまわす。「山太郎ガニは肺ジストマの中間宿主の疑いがあり、火を通さない状態では味見ができない」と話す。水や味噌は目分量で、長年の勘がものをいう。

ザルで数回こし、あとは鍋で温めればできあがりだが、温め方にもこつがある。沸騰させたり、かき混ぜたりしてはいけない。弱火でゆっくり加熱していくと、カニのたんぱく質と味噌の成分がふっくらと固まり、汁が澄んでくる。カニ風味の茶わん蒸しのような味と食感で、体も温まる。ここではカニ巻き汁のほか、山太郎ガニを素揚げしたものも出してくれる。

あげいんの「カニ巻き定食」には、山太郎ガニの素揚げも付く

広渡川水系でのモクズガニ漁は日南広渡川漁協(戸田博組合長)の鑑札が必要で、今年は約150人が入手した。漁期は9月から11月まで。夕方に川にカニかごを仕掛け、翌日の早朝に引き揚げる。こつは適度な石や緩やかな流れのあるカニが通りそうな「カニの道」を見つけることだ。

「9月に山太郎ガニを約900キログラム仕入れた」と話すのは、オリジナルの焼き肉のタレで知られる戸村グループ(日南市)で山太郎ガニの仕入れを担当する倉元正時さん(60)。同社のスーパーで販売するカニ巻き汁の冷凍パックの年間分と、直営のドライブイン、もみじの里とむら(北郷町)で出す分だ。

川魚のような臭みを消すため、加える水と味噌の最適な分量を割り出し、徹底しているという。「家庭で簡単に作ることができ、そうめんやうどんを入れて食べてもおいしい」と話す。

観光客でにぎわう飫肥(おび)城大手門前の郷土料理店「おび天 蔵」飫肥城店は郷土料理としてカニ巻き汁を出している。主任の三原由香里さん(41)は「山太郎ガニは期間が限られるのでワタリガニを使っている」と話す。調理法は同じで、年間を通じて味わえる。

<マメ知識>上海ガニに近い種
ハサミや脚の密集した毛が「藻くず」に見えることから、モクズガニと名付けられたとされる。生息域は山深い渓流にまで及び、宮崎県や鹿児島県では「山太郎ガニ」と呼んでいる。成体は手のひらほどの大きさになり、中国の有名な高級食材「上海ガニ」と近い種であるとされる。
日南広渡川漁協ではモクズガニ漁で使うカニかごを1人3個までと制限しているほか、毎年7月になると約400キログラムの稚ガニを放流するなど、川の資源保護にも取り組んでいる。

(宮崎支局長 鈴木豊之)

[日本経済新聞夕刊2018年11月29日付]

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