家族のため、「パパ料理」の喜び カジダンへの道
パパ料理研究家 滝村雅晴氏
おなかをすかせた子どもが夢中でごはんを食べて、おいしいといってくれる――。家族のために料理を作ることで幸せを実感する瞬間があります。世の中のお父さんたちに広く知ってもらいたくて2009年、38歳で会社を辞めて「パパ料理研究家」として独立しました。
料理塾を開いて講師をするようになりましたが、「男の料理」で失敗もしてきました。私が家庭で料理を作り始めたのは長女が生まれたのがきっかけです。「料理なんか無理」と思っていましたが、レシピ通り作ると自分でも驚くくらいおいしくできました。
それ以来、料理にはまり週末は私が作るようになります。使いきれない鍋や包丁を買い、スパイスを何十種類もそろえコース料理に挑み、デザートを出したのが深夜0時ということもありました。自分は大満足。でも、ある時、妻が喜んでいないことに気づきました。私が寝入った後、妻がキッチンの後片づけをしていたのです。
この時に痛感したのが、家庭料理は「自分軸」で作るのではなく、みんなのおなかのすき具合や体調を鑑みて「家族軸」で臨むべきだということ。パパ料理は「男の趣味の料理」ではありません。
パパ料理によって家族のコミュニケーションを深めることもできました。家族のためという気持ちを持ったことが、普段の自分を見つめ直す契機につながりました。妻が料理を作ってくれた時、私は「ありがとう」と言えていたか。
自分の料理塾に通うお父さんたちに必ず伝えるのは「家族がそろって食卓を囲める回数は有限であること」です。そこで一緒に食卓を囲む「共食」を勧めています。
私がパパ料理を始めるきっかけをつくってくれた長女は病気で2012年1月、8歳で天国に旅立ちました。彼女が生まれてから精いっぱい一緒にごはんを作り一緒に食べて、ものすごく楽しい時間を持つことができました。パパ料理の喜びに気づいていないままだったら、とても後悔したでしょう。
料理塾で勧めているとはいえ、定時退社の働き方がまだできていないお父さんが、平日にパパ料理を作って家族と共食をするのはハードルが高い。そこで有効なのが料理の時短術。土日を使って平日に食べる料理を作り置きすることです。共働き世帯で夫婦分担しながら作る家族も増えつつありますが、平日料理ができないお父さんも挑戦してみることです。
料理の時短は、単に調理を合理化するものではありません。捻出した時間で共食を実現するという目的を明確に持つことが重要になります。また、共食すれば、温め直しの必要もないし、片づけも一度に済む。浮いた時間は家族のだんらんに当てることもできる。
子育てには卒業がありますが、パパ料理はライフステージの変化に合わせ、妻に向けた「夫の料理」、孫に作る「じいじ料理」になるかもしれません。この連載を通じ、応用力のあるパパ料理の時短術を考えていきます。
京都府出身、48歳。1993年立命館大学卒業後、採用PR会社を経てデジタルハリウッド入社。09年パパ料理普及を進めるビストロパパ設立。農林水産省食育推進会議専門委員、大正大学客員教授。
[日本経済新聞夕刊2018年11月27日付]
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