八甲田山や宇宙の旅… 4K・8Kで名作映画が新生
12月から高精細な「4K8K」の衛星放送が始まる。放送各社が普及のカギを握るコンテンツとして注目するのが過去の名作映画だ。その一つ、「八甲田山」の4K化の現場を訪ねた。
「公開当時は加山雄三さんがどこに出ているのか分からないという声もあった。4K化によって俳優一人ひとりの顔がはっきり見えるようになった」
9月上旬、森谷司郎監督「八甲田山」特別上映会に登壇した撮影監督の木村大作は、4Kデジタルリマスター版の狙いを語った。4Kは画素数が通常のフルハイビジョン(HD)テレビの4倍で、細部まで鮮明に映し出せるのが特長だ。主演の北大路欣也も「この中には八甲田の空気が入っている。改めてすごい作品に出られたと痛切に感じた」と懐かしんだ。
1977年公開の同作は、旧陸軍の将兵が日露戦争に備え厳寒地を行軍する訓練中に遭難、多数の犠牲者が出た実際の事件を題材にした。高倉健、三国連太郎ら出演陣が厳冬のロケに耐えて作り上げた大作で、日本映画専門チャンネルを運営する日本映画放送が4K化した。
フィルム巻き取り、一コマずつ確認
東京都調布市にある東京現像所での作業工程はこうだ。まず滑車を使ってフィルムを巻き取りながら一コマずつ目と指の触覚で傷がないかを確認。それが終わるとフィルムの情報をコンピューターに読み取るスキャニングに移る。「35ミリフィルム自体に入っている4~6Kの情報を引き出してデジタル化するので情報量は膨大だった」と同社営業部の清水俊文氏は話す。
次に最新のデジタル技術を使い、ホコリや傷を消す「レストア」の作業に入る。4Kでは細かい傷もよく見える。1秒間24コマで構成するフィルムの修正したいコマの前後からきれいな画像のデータをコピーし貼り付けて消していく。
熟練のスタッフ4人による作業は完了まで2カ月かかった。時間をかけたのは雪のシーンで、自動で補修をかけた場合に雪をホコリとして認識するため、すべて手作業だった。最終工程の色調整(グレーディング)で画面を明るくしたことで傷が見つかることもままあり、差し戻しがきて再作業することもあった。
スクリーンに映し出しながらの色調整は、木村が3週間にわたり現場に入り指示を出した。木村がこだわったのは全体を明るくしつつ赤みを抑えること。不鮮明だった俳優の顔がくっきりとし、つぶれていた黒色の軍服の模様も鮮明に映る。本作はDVDやブルーレイでも見られるが「4K版は『新八甲田山』と言える」と木村は強調する。4K版を12月開局の「日本映画+時代劇4K」で12月2日に放送するとともに、日本映画専門チャンネルでも2K版を同時放送する。
元来の映像美を堪能
68年公開の「2001年宇宙の旅」(スタンリー・キューブリック監督)は、画素数がフルHDテレビの16倍となる8Kになって生まれ変わる。NHKが作品を管理するワーナー・ブラザースに呼びかけ、専門の作業チームがネガの修復と8K化を実現した。70ミリフィルムで撮影された元来の映像美が堪能できる。12月1日、BS8Kで放送する。来年3月には8K化したオードリー・ヘプバーン主演「マイ・フェア・レディ」も放送する予定だ。
フィルムは時間と共に劣化が進む。4K化に伴う費用の工面や膨大なデータの保管場所の確保などの課題もあるが、「過去の作品を高精細のデジタルで保存することで、質の高い映像で放送することができるようになる」(清水氏)。
4K8K放送の開始は、フィルムで撮られた名作を次世代につなぐきっかけにもなりそうだ。
(近藤佳宜)
[日本経済新聞夕刊2018年11月20日付]
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