映画『ハード・コア』 社会の縁からみる現代日本
山下敦弘監督の最高傑作といいたくなる。すくなくとも、見る者を画面にのめりこませつづける強烈なおもしろさにおいて一番だ。
狩撫麻礼作、いましろたかし画のまんが「ハード・コア 平成地獄ブラザーズ」が原作。まんがを原作にすることの利点に、映画的リアリズムの地平からは発想しえないようなアイデアを導入できることがあるが、この映画もそれをぞんぶんに活用している。脚本は、大阪芸大時代以来の名コンビ、向井康介。
権藤右近(山田孝之)は酒をのむとすぐカッとなって暴れ、まともな職にもつけない社会不適合者。世直しをかかげる政治結社にひろわれ、街宣活動のかたわら、山中で埋蔵金発掘作業についている。
「どんてん生活」(1999年)、「ばかのハコ船」(2002年)等、初期から山下作品を特徴づけている、社会の縁にいる男の系譜だが、妙に熱い侠気(きょうき)のもちぬしでもあり、知能に問題のある同僚の牛山(荒川良々。はまり役を好演)をなにかとかばい、彼の童貞脱出にちからを貸す。
右近の弟、左近(佐藤健)はキレ者の商社マン。兄と対照的に見えるが、彼もある意味、社会の縁にいることがわかってくる。
牛山が住みついている廃工場からロボットがあらわれる。昔のまんがみたいなアナクロでポンコツな見かけなのに、とんでもない高性能をもっていて(それは見てのおたのしみ)牛山と相性がいい。それを通じて牛山の過去が、ほの見える。
それまでも場面ごとにものがたりが意外な方向に展開しつづけていたのだが、この「ロボオ」(と命名)の登場で、さらに荒唐無稽さのパワーがあと押し。政治結社の内乱、結社番頭のむすめの淫乱などもからみ息もつかせない。縁から現代日本社会を見るリアリズムと、乱暴なファンタジーが幸福に融合した傑作だ。2時間4分。
★★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2018年11月16日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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